血管内皮:トロンボモジュリン、ヘパリン様物質、PGI2、NO、t-PA
血管内皮の神秘
なぜ血管内を循環している条件下では、血液は凝固しないのでしょうか?
それは、血管の内部を覆う血管内皮の果たす役割が極めて大きいと考えられています。血管内皮からは、血液を凝固させないための多くの抗血栓性物質が産生されています。
すなわち、以下のような物質が産生されることで、血栓ができにくいようになっています。
1) トロンボモジュリン(TM)
2) ヘパリン様物質(ヘパラン硫酸)
3) PGI2(プロスタサイクリン)
4) 一酸化窒素(NO)
5) 組織プラスミノゲンアクチベータ(t-PA)
これらの血管内皮から産生されている物質のほとんどはお薬になっています。人間は血管内皮をヒントにして、素晴らしいお薬を作り出したとも言えるのです。
少し、解説を追加したいと思います。
● 血管内皮には、トロンボモジュリン(TM)という抗血栓性物質が存在しています。トロンボモジュリン製剤(商品名:リコモジュリン)が、2008年5月についに市販されるようになりました。究極のDIC治療薬です。
さて、このトロンボモジュリンですが、2つ戦法で凝固を抑えています。
1)トロンビンを捕捉します。このことで、トロンビンの作用を抑制しますので、凝固を抑えていることになります。
2)加えて、トロンビン-トロンボモジュリン複合体は、プロテインC(PC)という凝固阻止因子を飛躍的に活性化して、活性型プロテインC(APC)に転換します。このAPCは、活性型第V因子(Va)と、活性型第VIII因子(VIIIa)を抑制します。この2段戦法による凝固の阻止は極めて効率良いと考えられています。
このトロンボモジュリンは、全身の臓器に広く分布していますが、ある臓器ではほとんどトロンボモジュリンが分布していないことが知られています。その臓器は、人間のからだの中で、最も血栓症が多い臓器としても知られています。
さて、トロンボモジュリンが分布していない臓器=最も血栓症が多い臓器とはどこでしょう? それは脳です。脳は、人間の体の中で最も血栓症が多い臓器ですが、トロンボモジュリンが分布していないことが大きな理由ではないかとも考えられています。
なお、トロンボモジュリンは血管内皮がダメージを受けますと、血中に遊離しやすいことが知られています。現在、血中トロンボモジュリン濃度を測定可能ですが、血管内皮障害のマーカーとして用いられています。
● 血管内皮には、ヘパリン様物質が存在します。ヘパリンという血栓症の治療に使われるお薬がありますが、血管内皮にはヘパリン類似物質が存在します。
このヘパリン様物質には、抗凝固性蛋白であるアンチトロンビン(antithrombin:AT)とTFPI(tissue factor pathway inhibitor:外因系経路インヒビター)が結合しています。アンチトロンビンは肝臓で産生されますし、TFPIは血管内皮から産生されます。
血管内皮は、アンチトロンビンとTFPIによってがっちりと保護されていることになります。
● 血管内皮からは、プロスタサイクリン(PGI2)と、一酸化窒素(nitric oxide:NO)が産生されます。この両物質は類似の作用を発揮します。すなわち、血小板機能抑制作用と、血管拡張作用です。血小板機能を抑制することでも抗血栓作用を発揮しますが、合わせて血管拡張作用を有することで、良好な循環維持に寄与します。
● このように、血管内皮には、トロンボモジュリンが存在し、アンチトロンビンやTFPIが結合し、一酸化窒素(NO)やプロスタサイクリン(PGI2)が産生されます。血栓症に対する防御は盤石のように感じます。しかし、どうもこの血栓症バリア機序は盤石ではないようで、しばしば人間は血栓症を発症します。
そういう時のために、できた血栓を溶かそうという働きがあります。その働きを、線溶と言います。血管内皮から組織プラスミノゲンアクチベーター(t-PA)が産生されます。t-PAは、肝臓で産生されたプラスミノゲン(Plg)をプラスミンに転換します。プラスミンは、血栓(フィブリン)を分解して、FDP(Dダイマー)にします。t-PAとプラスミノゲンは、血栓(フィブリン)親和性が高く、血栓のある場で、要領よく血栓を溶解します。
血管内皮には、このように多くのお宝成分が存在しています。
人間はそのお宝を見つけ出して、お薬(抗血小板薬、抗凝固薬、抗血栓薬)に転換してきました。
管理人が学生のころに習ったのは、アンチトロンビンと、PGI2くらいだったと思います。
その他につきましては、その後に次々と見つけ出されたのだと思います。
この勢いでいきますと、まだまだお宝は眠っているのではないでしょうか。。。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:59| 抗凝固療法 | コメント(0) | トラックバック(0)