金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2008年12月01日

播種性血管内凝固症候群(DIC):組織因子(TF)誘発DICモデル(図解19)

DIC19*

 

 

 LPS誘発DICモデルと、組織因子(TF)誘発DICモデルの比較についての続編です。

前々回の記事で書かせていただいたように、血小板数、フィブリノゲン(Fbg)、TATからのみでは、両モデルの差異を見いだすことはできませんでした。

ところが、前回の記事でも書かせていただいたように。DダイマーとPAIによって両モデルの大きな差異を見いだすことができるのです。

TF誘発DICモデルでは、PAIの上昇はほとんどありません。線溶に対する抑制はなく、血栓が溶解しやすい病態になります。血栓が溶解されやすいために、Dダイマーは急峻に上昇します。

また、両モデルにおけるDダイマーの動態も対照的であることも強調したいと思います。LPS誘発DICモデルでは、Dダイマーの上昇は軽度で、しかも軽度上昇が遷延します。一方、TF誘発DICモデルでは、急峻に上昇しますが、その後速やかに低下します。

血小板数、Fbg、TATだけでは分からなかったことが、PAI、Dダイマーで分かるということは、いかにPAI、Dダイマーというマーカーが重要であるかを示しているのではないかと思います。

 

以下で、DIC関連記事とリンクしています。

NETセミナー:「DICの病態・診断」へ
NETセミナー:「DICの治療戦略」へ

播種性血管内凝固症候群(DIC)【図説】

DIC(敗血症、リコモジュリン、フサン、急性器DIC診断基準など)

 

投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:41| 播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解) | コメント(1) | トラックバック(0)

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◆この記事へのコメント:

この度、以下のようなご質問をいただきました。大変難しく回答できないのですが、分かる範囲内でコメントさせていただきます。お名前とところは伏せさせていただきました。

(以下がご質問です)
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金沢大学 血液内科・呼吸器内科 御中

 突然のメール失礼します。私は北海道で乳牛の獣医師をしている○○と申します。DICについて調べているうちに巡り会った貴局のホームページは全般的にとてもおもしろい内容で、大いなる興味を持って拝見しました。本日は質問があってメールさせて頂きました。お忙しいこととは思いますが、御教授頂ければ幸いです。

 乳牛にも乳房炎という病気が存在し、なかでも大腸菌群が原因の乳房炎は治癒率が低いために問題となっています(乳生産に復帰できないものは治癒と判定しません)。現在もっとも普及している治療法は殺菌性抗生剤の投与を主体とした力業です。当然考えるべきエンドトキシンやサイトカインや組織因子の影響を考慮した治療をおこなう獣医師は、まだまだ少数派というのが現状です。

 この病気でもDICが起こることは認められておりますが、貴局のホームページに従うと「線溶抑制型」のDICに分類されると考えられます。ヒトのように多くの項目は調べられないものの、血液検査では白血球数の低下、血小板数の低下が認められます。また、乳牛にとっては非常に重要な測定項目であるCa濃度の低下も見られます。Ca濃度の低下の原因は、凝固因子として消費されたためであると私は考えています。ですから、治療にCa輸液剤を使用するとDICを促進させるのだと推測しています。つまり、この病気の治療にCa輸液剤の使用は禁忌であると考えています。この点について、いかがでしょうか?
 よろしくお願いします。
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(以上がご質問です)


(回答)
メールいただきありがとうございます。

貴殿のメールで、牛のDICでは、カルシウムイオンが下がることを初めて知りました。こちらの方こそ勉強になりました。逆質問で恐縮ですが、カルシウムイオンが低下する理由は、感染症が原因でしょうか、それともDICが原因でしょうか?たとえば、他の重症感染症ではどうでしょうか?あるいは、他の原因によるDICではどうでしょうか?

人では、DICでカルシウムイオンが問題になることはありません。おそらく、過去にそのような論文もないものと思います。

Ca輸液剤の使用は禁忌かどうかの知識は持ち合わせていませんが、少なくとも人ではこのような考えをする臨床医はいないと思います。

DICが原因でカルシウムイオンが下がったとした場合に、凝固活性化による消費があるかどうかですが、おそらくないのではないでしょうか?特に根拠がある訳ではないのですが。。。。

DICの治療ですが、私であれば、原疾患の治療とともに、やはりできるだけ早い時期にヘパリンによる治療を開始したいところです。人では、5〜10単位/kg/24時間の点滴を行います(牛にそのまま当てはめて良いのかどうかは良くわかりませんが)。また、24時間持続点滴が困難なようであれば、皮下注で分割投与する方法でも良いと思います。

答えにならず、すいません。しかし、とても興味深い問題提起をしていただいたように思います。これから、人のDICでも注意していきたいと思います。この度はありがとうございました。

投稿者:血液内科・呼吸器内科: at 2008/12/02 13:18

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