先天性血栓性素因と病態:アンチトロンビン・プロテインC&S欠損症(1)
【はじめに】
血栓症には、動脈硬化性病変を基盤として発症する動脈血栓症と、血流の停滞や凝固活性化により発症する静脈血栓症とがあります。
「血栓性素因」とは、いわゆる「静脈や動脈に血栓が生じやすい傾向」を示しています。
動脈硬化性病変の進展により動脈血栓症を発症する糖尿病、高血圧、高脂血症などは通常は「血栓性素因」には含めず、動脈硬化性病変がなくても血栓症を発症し、くり返し起こしてくるような病態を「血栓性素因」として扱っています。
先天性血栓性素因としては、生理的凝固阻止因子であるアンチトロンビン(Antithrombin:AT)、プロテインC(Protein C:PC)、プロテインS(Protein S:PS)の欠乏症(欠損症)が知られています。
一方、後天性血栓性素因の代表は抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome:APS)です。APSの診断には、ループスアンチコアグラントや抗カルジオリピン抗体の測定が必要になります。
その他の血栓性素因としては、高Lp(a)血症、高ホモシステイン血症なども知られています。
今回のシリーズでは、先天性血栓性素因の中でも、AT、PC、PS欠損症についてブログ記事にしたいと思います。
【病因および病態】
アンチトロンビン(AT)は、血液凝固活性化の結果として生じるトロンビン(FIIa)、活性型第X因子(FXa)、活性型第IX因子(FIXa)などの活性型凝固因子(セリンプロテアーゼ)に対する生理的凝固阻止因子です。血液凝固制御機構において極めて重要な機能を果たしています。
ATの活性型凝固因子に対する阻止効果は、ヘパリン(血管内皮に存在するヘパリン様物質や、治療薬として投与されるヘパリン)存在下で約1,000倍にも加速されることが知られています。
ATには、ヘパリン結合部位と、トロンビンやFXaなど活性型凝固因子との結合部位の2つの重要な部位があります。ATのヘパリン結合部位にヘパリンが結合することで、ATが構造変化し、ATの活性型凝固因子に対する阻止効果が増強するのです。
プロテインC(PC)は、血管内皮細胞に存在するトロンボモジュリン(thrombomodulin:TM)に結合したトロンビンにより活性化され活性化PC(activated PC:APC)となります。APCは血管内皮や血小板のリン脂質上でプロテインS(PS)と複合体を形成し(PSを補酵素として)、活性型第V因子(FVa)、活性型第X因子(FXa)を分解・失活させることで凝固反応を阻止します。
また、APCは線溶阻止因子であるプラスミノゲンアクチベーターインヒビター-1(plasminogen activator inhibitor:PAI-1)を中和し、線溶活性化を促進すると考えられています。
血中PSの約60%は補体制御蛋白の一種であるC4b結合蛋白(C4BP)と結合しており、約40%が遊離型として存在することが知られています。
APCに対する補酵素活性を有するのは、PSのうち遊離型PSのみです。この遊離型PSの低下が血中PS活性の低下につながると考えられています。C4BPとの複合型PSは、遊離型PSの補酵素活性を阻害します。したがってC4BP値の増減が、血中PS活性に影響することになります。
このように、AT、PC、PSなどの生理的凝固阻止因子に先天的な欠損や質的異常がみられますと、過凝固状態を呈し、血栓傾向となるのです。
(続く)
参考:
【シリーズ】先天性血栓性素因:アンチトロンビン・プロテインC&S欠損症
1)病態
2)疫学
3)症状
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5)診断
6)治療
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:30| 血栓性疾患 | コメント(0) | トラックバック(0)