先天性血栓性素因と疫学:アンチトロンビン・プロテインC&S欠損症(2)
アンチトロンビン・プロテインC&S欠損症(1)からの続きです。
【疫学】
血栓性素因の関連遺伝子に関しては、人種差が注目されています。
欧米における血栓症発症の二大危険因子であるFactor V Leiden変異(活性化プロテインC抵抗性)やプロトロンビンG20210A変異は、日本人には見られません。
日本人一般住民を対象とした報告によると、アンチトロンビン(Antithrombin:AT)、プロテインC(Protein C:PC)、プロテインS(Protein S:PS)の各欠乏症の発症頻度は以下の通りです。
先天性PC欠乏症の発症頻度:0.13%(欧米人と差はなし)
先天性AT欠乏症の発症頻度:0.15%(欧米人と差はなし)
先天性PS欠乏症の発症頻度:1.12%(欧米人での発症頻度 0.16〜0.21%と比較して、5〜10倍も高いことが判明しています)
特に、PS分子異常症であるPS Tokushima変異(PS K196E:196 Lys→Glu)ヘテロ接合体は一般住民の55人に1人も見られ、日本人の遺伝子多型と考えられます。
最近報告された日本人の深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)患者173例を対象としてPS、PC、ATの遺伝子背景について解析したところ、いずれかの遺伝子にアミノ酸変化を伴う変異を有する症例が約30%検出されています(文献)。
特にPS遺伝子変異を有する症例が16%と全体の約1/6を占め、血栓症の重要な危険因子であることが明らかになっています。
一方で、AT、PC、PSの遺伝子検査だけでは7割弱の症例の原因が特定できないことも示していることになります。血栓性素因の原因検査の難しさを表わしていると言えます。
(続く)
【シリーズ】先天性血栓性素因:アンチトロンビン・プロテインC&S欠損症
1)病態
2)疫学
3)症状
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5)診断
6)治療
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:09| 血栓性疾患 | コメント(0) | トラックバック(0)