先天性血栓性素因と血液・遺伝子検査:アンチトロンビン・プロテインC&S欠損症(4)
アンチトロンビン・プロテインC&S欠損症(3)からの続きです。
検査所見上の特徴
【血液検査】
一般に血栓性素因が疑われる場合には、ループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant:LA)、抗カルジオリピン抗体(IgG抗体)、抗カルジオリピンーβ2グリコプロテインI抗体(抗aCL-β2GPI複合体抗体)測定による抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome:APS)の検索を行います。
さらに生理的凝固阻止因子であるアンチトロンビン(Antithrombin:AT)、プロテインC(Protein C:PC)、プロテインS(Protein S:PS)の血中活性を測定し、先天性血栓性素因をスクリーニングします。
また、血中ホモシステインや、Lp(a)濃度の測定も行っておきたいところです。
(1)アンチトロンビン
血中アンチトロンビン(AT)レベルの測定は、ヘパリン存在下でのトロンビンまたはXa阻害効果を合成基質を用いて活性を測定する方法が一般的です。
抗原量は、抗AT抗体を用いた免疫学的方法により測定します。
ヘパリン使用時に採血しますと、AT活性が低下しデータの信頼性が落ちるので注意が必要です。
AT活性低値を示す場合としては、以下が代表的です。
1)先天性AT欠損症
2)消費性凝固障害(播種性血管内凝固症候群:DIC)
3)炎症性サイトカインの作用による産生低下
4)炎症(血管透過性亢進)による血管外漏出(敗血症DICなど)
5)肝予備能低下(肝硬変、劇症肝炎、肝不全)によるAT産生低下
6)尿中への喪失(ネフローゼ症候群)
7)薬剤(エストロゲン製剤、L-asparaginaseなど)の影響
8)その他
(2)プロテインC
プロテインC(PC)、プロテインS(PS)はいずれも、凝固VII、IX、X、II因子とともにビタミンK依存性蛋白です。ですから、PC、PSはビタミンK欠乏症やビタミンKの拮抗薬であるワルファリン内服でも低下いたします。
PC活性の測定には、凝固時間法と合成基質法とがあります。
両者ともに蛇毒由来プロテインC(PC) activator(プロタック)で血漿中PCを十分活性化し、生じた活性化PC(activated PC:APC)によるAPTT延長効果をみる方法が凝固時間法であり、発色合成基質の分解能をみる方法が合成基質法です。
合成基質法ではワルファリン内服患者におけるPIVKA-PCが偽高値を示したり、Glaドメインなどに変異がある先天性PC異常症ではPC活性値が偽高値となり診断を見落とす可能性があるので留意すべきです。
PC抗原量の測定は、総PC濃度測定法と、正常なGlaを有するPCを特異的に測定する方法とがあり、共にELISAを用います。
PC活性低値を示す場合としては、以下が代表的です。
1)先天性PC欠損症
2)肝予備能低下(肝硬変、劇症肝炎、肝不全)によるPC産生低下
3)ビタミンK欠乏症:食事摂取量の低下、抗生物質の長期連用、胆道閉塞(閉塞性黄疸)、ワルファリン内服など。PCは半減期が大変短く、ビタミンK欠乏状態や肝予備能低下で速やかに活性が低下します(これは後記のPSとの違いです)。
4)凝固活性化による消費(DICなど)
5)血管内皮細胞傷害に基づく血管外漏出
6)その他。
たとえば深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)症例にワルファリンを投与してしまってから血栓性素因の精査を行いますと、先天性欠損症との鑑別はきわめて困難となってしまいます。
したがって、臨床サイドも検査部サイドも、血栓性素因が疑わしい症例ではワルファリン投与前の検体保存を心がけるべきなのです。
(3)プロテインS
血中プロテインS(PS)活性は、活性化PC(activated PC:APC)のコファクター(補助因子)活性を凝固時間法で測定することができますが、保険適用外検査です。
PS抗原量は、総PS抗原濃度、遊離型PS濃度、C4BP結合型濃度をELISA法にて測定できます。
遊離型PS抗原量は、女性が男性よりも低値です。
加齢による変動は男性で認められ、80代では30代の8割以下まで低下します。
通常遊離型PS抗原量はPS活性を反映しますが、異常PS分子の場合は遊離型PS抗原量と活性は乖離する場合がありますので、先天性血栓性素因の検索にはPS活性の測定が望ましいと言えます。
しかしながら血栓性素因のスクリーニング検査では、通常保険適用のある遊離型PSしか測定できないのが現状です。
一方、PS活性測定によるPS欠損症の診断にも限界があることが指摘されており、健常者でもPS活性が低下したり、日本人に多いPS Tokushima変異(155 Lys→Glu)のヘテロ接合体ではPS活性が低下しない場合があります。
PS活性低値を示す場合としては、以下が代表的です。
1)先天性PS欠損症
2)肝予備能低下(肝硬変、劇症肝炎、肝不全)によるPS産生低下
3)ビタミンK欠乏症:食事摂取量の低下、抗生物質の長期連用、胆道閉塞(閉塞性黄疸)、ワルファリン内服など。しかし、半減期の短いPCほどは低下しないことが多いです。
4)妊娠、経口避妊薬使用時
5)全身性エリテマトーデス
6)抗リン脂質抗体症候群(APS)
7)ステロイド内服
8)ネフローゼ症候群
9)その他
【遺伝子検査】
施設によっては、さらに家族を含めた遺伝子レベルの解析まで行う場合があります。
しかし、必ずしも遺伝子変異部位が特定できるとは限らず、今までの遺伝子解析法ではPS欠損症の40〜50%程度は遺伝子異常が同定されないと言われています。
遺伝子解析が必ずしも最終的な診断法となりえるわけではありませんが、ワルファリン服用中のPCあるいはPS低下例で変異部位が同定できますと、先天性欠損症の診断が確定し、威力を発揮する場合が多々あるのです。
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【凝固異常症の遺伝子検査のご依頼は以下までどうぞ!】
金沢大学 血液内科・呼吸器内科
tanada@staff.kanazawa-u.ac.jp
とりあえず上記のメールアドレスにご連絡ください。内容を拝見した上で、問題がなければ、血液凝固異常症遺伝子検査担当の専門医師(金沢大学第三内科 血栓止血研究室のベテラン内科医師です)に転送いたします。
その後は、担当専門医師と直接連絡をとっていただくことになると思います。
なお、上記メールアドレスは医療関係者から当科への遺伝子解析依頼目的のものです。それ以外の目的でメールをいただいても対応できない状況ですので、どうぞよろしくご理解のほどお願いいたします。
参考書籍:
「臨床に直結する血栓止血学」(先天性血栓性素因に関しても詳述されています)
P.S.
今までも、全国の各地域から多数のご依頼をお受けしています。
金沢大学から遠方の地域であっても何ら支障ございませんので、ご遠慮なくご連絡くださいませ。
(続く)
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:04| 血栓性疾患 | コメント(0) | トラックバック(0)