深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):治療
深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):症状&診断から続く。
【深部静脈血栓症/肺塞栓の治療】
静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)、すなわち深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)&肺塞栓(pulmonary embolism:PE)の治療です。上図では、一応、網羅的に列挙しましたが、何と言っても基本は抗凝固療法です。
<急性期の治療>
低分子ヘパリン(商品名:フラグミン)、ダナパロイド(商品名:オルガラン)、未分画ヘパリンと言った抗凝固療法(点滴or注射製剤)から選択します。
●未分画ヘパリン:
10,000〜20,000単位/24時間くらいで投与することが多いです。APTTを〜倍に延長させるように(たとえば2倍に延長させるように)という投与方法が欧米の教科書では推奨されていますが、管理人はこのような方法には疑問を感じています。日本人で、APTT2倍にも延長させるような投与方法はむしろ出血の副作用を増強させる懸念の方が大きいと考えています。むしろ、APTTがあまり延長させないようにヘパリンを投与する方が上手な投与方法であることが多いと考えています。
そもそもAPTTが延長することとヘパリンが効いているかどうかは無関係です。ヘパリンの効果は、FDP、Dダイマー、TATなどで評価すべきでしょう。ただし、このあたりの考え方は専門家の間でも意見が分かれるところです。
なお、特にICUで管理されている患者さんでは、動脈ラインから採血されることがしばしばあると思いますが、動脈ラインのヘパリンがほんのわずかでも混入しますと、APTTは著しく延長しますので、注意が必要です。
●フラグミン:
低分子ヘパリンの中のフラグミンは、DICにしか保険収載されていません。DVT/PEには保険が認可されていないのですが、未分画ヘパリンよりもいろんな点ですぐれた薬剤です。本来であれば、欧米でのようにDVT/PEの治療にも低分子ヘパリンを使用したいところです。なお、クレキサンという低分子ヘパリンは、整形外科手術後のDVT予防目的に使用することができますが、残念ながら治療目的には使用できません。
フラグミンを使用可能な場合には、75単位/kg/24時間で使用します(通常4,000〜5,000単位/24時間くらいの使用量になります)。未分画ヘパリンとは単位の使い方が違いますので注意が必要です。
●オルガラン:
これも優れた薬剤ですが、残念ながら日本ではDICにのみ保険収載されています。この薬剤は半減期が20時間と長いために、1日2回の静脈注射のみで持続した効果を期待できるのが魅力です。そのため、24時間持続点滴で患者様を拘束する必要がありません。もし本薬を使用可能な場合は、DICに準じて、1,250単位を、1日2回静脈注射します。
<慢性期の治療>
ワルファリン(商品名:ワーファリン)による抗凝固療法(経口薬)を行います。通常PT-INR2〜3(トロンボテスト換算で、TT 9〜17%)程度のコントロールを行います。
2.の線溶療法は、別途下記させていただきます。
3.の下大静脈フィルターは、ごく限られた適応です。
4.の弾性ストッキングはむしろ予防としての意義の方が大きいです。
5.の手術が必要になることは、極めて例外的です。おそらく1%もないと思います。
【深部静脈血栓症/肺塞栓に対する線溶療法の是非】
血栓溶解療法(線溶療法とも言います)は、文字通り血栓を溶解する治療です。
いろんな血栓症に対して行われています。心筋梗塞、一部の超急性期の脳梗塞などに行われています。線溶療法に成功しますと、臨床症状が劇的に改善します。このため、臨床家としても全例の血栓症に対して行ってみたいという誘惑にかられることがあります。ただし、出血の副作用には十分な注意が必要です。たとえば、適応のない脳梗塞に対して不適切な線溶療法を行いますと、脳出血を合併して、かえって予後が悪くなることがあります。
さて、静脈血栓塞栓症(VTE)、すなわち深部静脈血栓症(DVT)&肺塞栓(PE)に対してはどうでしょう?
実は、静脈血栓塞栓症に対する線溶療法は、むしろ行わない方が良い場合の方が多いのです。最近報告された一流誌の総説論文でも、むしろ線溶療法を行いすぎないようにと警鐘をならしています。
<深部静脈血栓症(DVT)に対する線溶療法>
一般的には推奨されないとされています(超重症の場合の四肢救済目的を除く)。むしろ、線溶療法を行うことによって、血栓の遊離を促して、肺塞栓をおこしやすくなるという考えがあるくらいです。また、出血の副作用の懸念があります。DVTで、線溶療法が必要な例は、おそらく1割もないのではないかと思います。
<肺塞栓(PE)に対する線溶療法>
ショックなど血行動態が不安定な重症例にのみ適応があります。軽症例に行いますと、出血の副作用の方が強く出てしまって良いことはありません。
管理人は、線溶療法が、静脈血栓塞栓症に対して安易に使われすぎているのではないかと懸念しています。むしろ、線溶療法を行いたい気持ちを抑えるのが、静脈血栓塞栓症の治療のポイントではないかと思っています(繰り返しになりますが、重症例では適応がありますが、症例はごく限られているでしょう)。
やはり、静脈血栓塞栓症の治療の基本は、抗凝固療法、すなわち、急性期のヘパリン類、慢性期のワーファリンと考えられます。
(続く)
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:57| 血栓性疾患 | コメント(0) | トラックバック(0)