金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2009年04月25日

トランサミン(1):線溶とは

トラネキサム酸(商品名:トランサミン)は、アドナなどとともに止血剤の代名詞的な薬剤です。

今回から、数回のシリーズで、トランサミンの話題を提供させていただきたいと思います。

 

血管と線溶

 
【線溶とは】

生体内における線溶(fibrinolysis)とは、組織プラスミノゲンアクチベーター(tissue plasminogen activator:t-PA)がプラスミノゲン(plasminogen)をプラスミン(plasmin)に転換することによって、プラスミンが主としてフィブリン(fibrin)(血栓:thrombus)を分解(溶解)する現象です。

そして、血栓溶解の分解産物がフィブリン/フィブリノゲン分解産物(fibrin/fibrinogen degradation products:FDP)ですし、フィブリン分解産物の細小単位がDダイマーです。 

この際、t-PA(血管内皮から産生)とプラスノゲン(肝から産生)は、フィブリンに対する親和性が高いために血栓上で効率よく線溶が進行することになります(線溶とt-PA&プラスミノゲン:血液凝固検査入門(10))。

 

また、プラスミノゲンはリジン結合部位を介してフィブリンに結合することが知られています。

血中FDPやDダイマーが上昇する疾患は血栓性疾患において多数知られていますが、 血中FDPやDダイマーなどのマーカーの上昇は、通常は血栓の分解を意味しています。

 

すなわち、凝固活性化の結果血栓が形成されて、かつ線溶活性化の結果として血栓が溶解した(凝固・線溶の両者の活性化が進行した)サインと考えることができます。

 

線溶は、生体内においては形成された血栓を溶解するという観点から、生体防御反応的意味合いを有しています。


たとえば、播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)においては、全身性持続性の著しい凝固活性化がみられて全身臓器の細小血管に微小血栓が多発しますが、同時進行的に線溶も活性化して血栓が溶解してFDPやDダイマーが上昇します。


この時の線溶活性化が適度であれば、まさに生体防御反応と言うことができるのです。

さて、トラネキサム酸(商品名:トランサミン)は止血剤の代名詞なのですが、線溶という生体防御反応を抑制してしまうお薬でもあります。ですから、その使用方法には十分な注意が必要です。トランサミンは、諸刃の剣的なお薬ということができます。


(続く)

トランサミン(2):作用機序、半減期、保険適応

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播種性血管内凝固症候群(DIC)<図解>(インデックスページ)


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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 21:37| 出血性疾患