金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2009年04月28日

トランサミン(4):線溶亢進型DICに対して

トランサミン(3):有効な病態 から続く

 

【線溶亢進型DICに対するトラネキサム酸投与の是非】

<DICに対する抗線溶療法の基本的考え方>

まず、DICに対するトラネキサム酸(商品名:トランサミン)などの抗線溶薬の投与は原則禁忌であることを強調しておきたいと思います。

DICにおける線溶活性化は、血栓を溶解しようとする生体の防御反応の側面もありますので、これを抑制することは生体にとって不利益です。実際、DICに対して抗線溶療法を行った場合に、全身性血栓症の発症に伴う死亡例の報告が複数みられています。

特に、敗血症などの重症感染症に合併したDICにおいては、プラスミノゲンアクチベータインヒビター(plasminogen activator inhibitor:PAI)が著増し線溶抑制状態にありますので、多発した微小血栓が残存しやすい病態です。このような病態に対して、抗線溶療法を行うことは理論的にも問題があり、絶対禁忌です。

敗血症症例に対して抗線溶療法を行ったという臨床報告はみられませんが、我々の検討によりますと、敗血症DICと病態が近似したLPS誘発DICモデルに対してトラネキサム酸を投与すると、臓器障害は著しく悪化し死亡率も高くなるという結果を得ています。


<線溶亢進型DICに対する抗線溶療法>

一方、重症の出血症状をきたした線溶亢進型DICに対して、ヘパリン類(ダナパロイド、低分子ヘパリンなど)の併用下にトラネキサム酸を投与しますと、出血症状が劇的に改善することがあるのも事実です。

ただし、線溶亢進型DICに対してトラネキサム酸が許されるのは、以下の条件が全て満たされている時に限定されます。

1)    線溶亢進型DICの病態診断が間違いないこと(以下の表を参照)。
2)    重症出血のコントロールをできずに苦慮していること。
3)    必ずヘパリン類(ダナパロイド、低分子ヘパリンなど)との併用下であること。
4)    専門家に日々コンサルトできる状態にあること(誤った治療法は血栓症の副作用のため致命症になることがあるためです)。

なお、上記の条件を満たさない線溶亢進型DICに対しては、メシル酸ナファモスタット(商品名:フサンなど)の投与が無難です。実際、極めて重症でなければ、メシル酸ナファモスタットは線溶亢進型DICに対して著効いたします(高カリウム血症の副作用には注意)。

 

表:線溶亢進型DICの病態診断を行うための指針
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1.    必須条件:TAT≧20μg/lかつPIC≧10μg/ml(※)
2.    検査所見:下記のうち2つ以上を満たす
1)    FDP≧80μg/ml
2)    フィブリノゲン<100mg/dl
3)    FDP/DD比の高値(DD/FDP比の低値)
3.    参考所見:下記所見がみられる場合、さらに重症出血症状をきたしやすい。
1)    血小板数低下(<5万/μl)
2)    α2PI活性低下(<50% )
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(※)この必須条件を満たす場合は典型例である場合が多い。TATPICが、上記の7〜8割レベルの上昇であっても、線溶亢進型DICの病態と考えられることもある。


(続く)

トランサミン(5):APL、ATRA、副作用(血栓症)

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:26| 出血性疾患