金沢大学・血液内科・呼吸器内科
※記事カテゴリからは過去の全記事をご覧いただけます。
<< 前のエントリトップページ次のエントリ >>
2009年05月01日

骨髄不全:金沢大学 血液・移植研究グループ紹介(2)

金沢大学 血液・移植研究グループ紹介(1):臨床研究から続く

前回に続きまして、当科の血液・移植研究室の紹介です。
関連記事:汎血球減少のマネジメント:特に骨髄不全について

【金沢大学 血液・移植研究グループ】(2)



<骨髄不全>


過去においては不治の病と言われてきた再生不良性貧血(aplastic anemia:AA)も、免疫抑制療法(immunosuppressive therapy)の導入後、約7割の患者さんにおいて寛解が可能となりました。こうした免疫病態が原因で発症した骨髄不全の患者さんを治療開始前に判別可能であれば、治療方針の決定に極めて有用です。

金沢大学血液・移植研究室では、歴代の大学院生たちが免疫病態を示唆するマーカー(微少PNH型血球、抗DRS-1抗体、抗モエシン抗体)を新たに見いだして、それらのマーカーを治療前に検索して免疫抑制療法に対する治療効果との関係を検討しています。そして、これらのマーカーが治療反応性の予測因子となり得るか否かを明らかにするための多施設共同臨床試験を実施しています。現在、全国から多数の登録をいただき解析しているところです。

「高感度フローサイトメトリー法を用いたPNH型血球の検出」は、現在ではその重要性が広く認知されるようになりました。これまでの700例以上のデータの解析から、再生不良性貧血の約50%,骨髄異形成症候群の約15%にPNH型血球の微少増加を認めました。PNH型血球増加を認めた多くの症例は免疫抑制療法に高反応性を示し、長期予後も良好であることわかりました。

このPNH型血球がどのようにして生じ、長期的にどのように推移するのかついてはよく分かっていませんでした。これらの問題を明らかにするため、骨髄不全の患者さんから検出したPNH型顆粒球について、PIGA遺伝子変異の有無を解析し、これを経時的に行うことによりPIGA変異造血幹細胞クローンの動態を明らかにする試みをはじめました。現在までに3例でPIGA遺伝子変異を同定し、6ヶ月後の再検でも同一の変異が持続していることを観察しています。このうちの1例は移植後生着不全時にドナー由来のPNH型血球が出現した例でした。この例のドナーの骨髄細胞をARMS-PCR法を用いて解析したところ、骨髄細胞中にPIGA変異が認められました。ドナー末梢血中にはPIGA変異は認められず、PIGA変異造血幹細胞が再生不良性貧血発症前の健常者骨髄に認められた例として報告しました。

Mochizuki K, et al: Expansion of donor-derived hematopoietic stem cells with PIGA mutation associated with late graft failure after allogeneic stem cell transplantation.
Blood
. 2008 Sep 1;112(5):2160-2.

また、PNH型形質の細胞が検出される再生不良性貧血患者の血清中に、モエシン(細胞骨格と細胞膜とのリンカータンパク質)に対する抗体が高頻度で検出され、抗モエシン抗体を検出することにより再生不良性貧血の免疫病態を診断できる可能性が示唆されました。また、リンパ球や単球の表面にはモエシンが発現しており、再生不良性貧血患者血清から分離した抗モエシン抗体をリンパ球や単球に作用させるとTNF-αやIFN-γの分泌促進が起こることがわかりました。更に抗モエシン抗体によって単球内のERK1/2経路が働き、TNF-α分泌が生じることを同定しました。

 

 

Takamatsu H, et al: Specific antibodies to moesin, a membrane-cytoskeleton linker protein, are frequently detected in patients with acquired aplastic anemia.
Blood
. 2007 Mar 15;109(6):2514-20.

Takamatsu H, et al: Anti-moesin antibodies in the serum of patients with aplastic anemia stimulate peripheral blood mononuclear cells to secrete TNF-alpha and IFN-gamma.
J Immunol. 2009 Jan 1;182(1):703-10.

 

以上のことから、抗モエシン抗体によって造血抑制サイトカイン分泌促進が生じ、再生不良性貧血の免疫病態が形成される可能性を考えています。


(続く)

同種造血幹細胞移植&ワクチン療法:金沢大学 血液・移植研究グループ紹介(3)

 

 

 

【リンク】

金沢大学 血液内科・呼吸器内科ホームページ

金沢大学 血液内科・呼吸器内科ブログ


研修医・入局者募集

投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:12| 血液内科 | コメント(1)

◆この記事へのコメント:

この記事のコメント欄で、セカンドオピニオンについてのご相談がありました。
本名が書かれていましたので、公開手続きをとらずに、お返事のみを書かせていただきます。

http://web.hosp.kanazawa-u.ac.jp/patients/guide/2n
dopi/index.html

上記に当院のセカンド・オピニオン外来の手続きが載っていますので、ご参照いただければと思います。

投稿者:血液・呼吸器内科: at 2009/10/01 14:54

※必須