血栓症の病態:真性赤血球増加症、本態性血小板血症(3)
動脈・静脈血栓症:真性赤血球増加症(真性多血症)、本態性血小板血症(2) から続く
シリーズを続けます。引用論文(数字で記載)は、このシリーズの最後の記事でまとめて紹介させていただきます。
【PV、ETにおける血栓傾向の機序】
1)血液粘度の上昇:
PVにおいては、まず高ヘマトクリットにより血液粘度が上昇することが血栓傾向の大きな原因の一つと考えられています。血液粘度の上昇は、特に脳梗塞の発症上、重要な危険因子になると考えられています。また、血液粘度の上昇は、静脈血流の障害をきたし静脈血栓症の発症にもつながりやすいのです。
この点、PVにおける血液粘度のコントロールは、血栓症発症を抑制するという観点から重要ですが、血小板活性化の要素も血栓症発症と関連している点にも留意する必要があります。実際、ET症例においては、ヘマトクリット値が正常であったとしても、やはり血栓傾向にあるとの報告があります12)。
2)赤血球成分の異常:
PVやETにおいては、赤血球膜成分や赤血球内容物の組成変化がみられるという検討結果があります13)。このことが赤血球凝集を形成させ血栓症、特に脳梗塞の発症に関連しているという報告があります。さらに赤血球凝集は、血小板や白血球と、血管壁との相互作用を亢進させることが知られています。
培養血管内皮細胞を用いた検討によりますと、PV症例からの赤血球は、健常人と比較して血管内皮細胞に3.7倍も結合しやすいことが観察されています。そしてこの結合には、赤血球膜のLutheran血液型/基底膜細胞接着因子 (Lu/BCAM)と培養血管内皮細胞のラミニンα5鎖が関与しているようです。JAK2遺伝子変異を有したPVの赤血球ではLu/BCAMが恒常的にリン酸化されているために、赤血球が血管内皮に粘着しやすいらしいのです14)。このことも、微小循環障害や血栓症の原因になると考えられます。
3)血小板数 & 白血球数上昇:
ETやPVにおける血小板数の上昇も、血栓症発症の重要な要素になっています。実際、血小板数を低下させるような治療は、微小循環障害を改善させると指摘されています15)。ただし、高リスクのET症例においては、化学療法を行うことで血栓症発症を抑制できることが知られていますが16)、これは血小板数を低下させることの効果のみならず、白血球数をも低下させることで血小板と白血球の相互作用を抑制する効果にも依存しているものと考えられています。
なお、ETにおける著明な血小板数上昇は、血栓症よりもむしろ出血傾向の原因になることが知られている。その理由としては、血小板数が著増した状態でvon Willebrand因子のlarge multimerの代謝が早まるために、後天性von Willebrand病の病態になることが指摘されています。興味あることに、この場合は、化学療法により血小板数を低下させると出血傾向が改善することが知られています。
4)血小板機能:
PV、ETにおける血小板機能異常に関しても、従来多くの報告がなされています。血小板凝集能検査では、しばしばエピネフリン凝集の欠如所見が観察されます。また、血小板膜糖蛋白(GP)や受容体の異常に関する報告もみられています(GPIbやGPIIb/IIIaの発現低下、GPIVの発現低下など)。
一方で、慢性骨髄増殖性疾患で血小板活性化を生じているという報告もみられています。具体的には、血小板活性化を反映している血中βTGやPF4が上昇しているという報告や、トロンボキサンA2代謝産物の尿中排泄量の増加している報告がみられています。この代謝産物は、少量アスピリンの内服により著明に抑制されます。
5)JAK2遺伝子変異による血栓傾向:
PV、ETにおいて最近ホットな話題です。この点は後の記事で紹介させていただきます。
(続く)
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:21| 血栓性疾患 | コメント(0)