JAK2遺伝子変異と血栓症:真性赤血球増加症、本態性血小板血症(4)
血栓症の病態:真性赤血球増加症(真性多血症)、本態性血小板血症(3)から続く
何回も繰り返し書いて恐縮ですが、引用論文(数字で記載)は、このシリーズの最後の記事でまとめますので、よろしくお願いいたします。
【JAK2遺伝子変異による血栓傾向の機序】
前述のように、近年、骨髄増殖性疾患の多核球や血小板におけるチロシンキナーゼJAK2遺伝子変異(V617P)の存在が明らかになっています。また、JAK2遺伝子変異と血栓症との関連を論じた報告も多くみられるようになっています。
まず、この遺伝子変異を有したETでは、PVの性格を有しやすく静脈血栓塞栓症の発症率が高いと指摘されています 6)。
JAK2遺伝子変異と稀な部位での血栓症との関連について論じた興味ある報告がいくつかあります。
Budd-Chiari症候群(肝硬変例を含まない)においては、臨床的に、また血液学的に骨髄増殖性疾患の診断がなされない場合であっても、その6割近い症例において、JAK2遺伝子変異を有していると言われています。
また、腹腔内静脈血栓症(門脈血栓症や腸間膜静脈血栓症)においても2〜3割の症例でこの変異を有していると報告されています 17)18)。
このように、JAK2遺伝子変異の有無について検査することにより、臨床的に顕性化する前に、潜在的な骨髄増殖性疾患を検出することが可能と考えられています。
腹腔内静脈血栓症や脳静脈洞血栓症の症例における検討から、JAK2遺伝子変異は、骨髄増殖性疾患の有無とは関係なく、独立した血栓症の危険因子であるとも指摘されています19)20)21)。
この点からも、今後、Budd-Chiari症候群や、腹腔内静脈血栓症の症例に遭遇した場合には、JAK2遺伝子変異の有無の検査は必須と考えられます22)。ただし、腹腔内静脈血栓症以外の血栓症では、JAK2遺伝子変異との関連はないとの報告もみられています23)。
JAK2遺伝子変異が存在するとなぜ血栓傾向になるのかについても興味のあるところです。
● JAK2遺伝子変異がありますと、血小板表面上のPセレクチンの発現が高まったり、多核球の活性化を生じるという報告があります 24)。
● また、ET患者(半数例でJAK2遺伝子変異あり)の血小板や多核球には、組織因子、接着因子、炎症関連因子の発現が多く、特にJAK2遺伝子変異があると血小板表面上の組織因子発現が多く、加えて血小板と白血球の凝集が形成されやすいという報告もみられています25)。
● なお、ETにおける血栓症発症は血小板数高値であることが、大きな危険因子になっているという考え方がなされてきた歴史がありますが、血小板数が多いとむしろ血栓症発症が少ないという興味ある報告があります。この論文では、白血球数高値(1.1万/μL以上)、血小板数低値(100万/μL以下)、JAK2遺伝子変異(+)が血栓症発症の危険因子であると論じています 26)。
● JAK2遺伝子変異を有したETやPVにおいては、遊離型プロテインSの低下をきたし(好中球エラスターゼと負の相関)、後天性の活性化プロテインC抵抗性の病態になるという報告があります 27)。
● さらに近年では、JAK2遺伝子変異は造血細胞のみならず血管内皮細胞でもみられており、血管内皮の有している抗血栓性の作用が障害されているという考え方も報告されています 28)29)。
(続く)
【凝固検査&DIC】
1)血液凝固検査入門
2)DIC(図解)
3)DIC(治療ほか)
【関連記事】
金沢大学第三内科HPへ
金沢大学第三内科ブログへ
研修医・入局者募集へ
研修医の広場(金沢大学第三内科) ← 当科での研修の様子をご覧いただくことができます。
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:45| 血栓性疾患 | コメント(0)