悪性腫瘍(癌)とDIC:発症機序
【DIC発症機序:悪性腫瘍】
悪性腫瘍における播種性血管内凝固症候群(DIC)発症の主因は、腫瘍細胞表面および腫瘍細胞中に含まれる組織因子による外因系凝固機序の活性化と考えられています。
その他には、腫瘍細胞に対する免疫反応により単球/マクロファージが刺激され、単球/マクロファージより組織因子が産生される機序や(この際、リンパ球が介在してサイトカインの働きにより組織因子産生が増幅される可能性があります)、悪性腫瘍患者において誘導されるTNF、IL-1と言ったサイトカインが血管内皮細胞に作用し、血管内皮細胞における組織因子が産生が亢進したり、トロンボモジュリンの発現が抑制されることにより、血管内皮細胞の性格が抗凝固から向凝固にシフトされることなどが考えられています。
ただし、このような腫瘍に対する免疫反応やサイトカイン産生などに伴う凝固活性化の機序(単核球や血管内皮細胞を巻き込んだ凝固活性化の機序)は、敗血症に合併したDICと比較するとはるかにそのグレードは小さいものと考えられています。
腫瘍細胞からは、組織因子のみならずcancer procoagulant(第X因子を直接活性化するシステインプロテアーゼであり、VIIa、IXaなどのセリンプロテアーゼとは第X因子の切断部位が異なります)も放出されています。cancer procoagulantは、ヒト胎盤、肺癌、大腸癌、白血病細胞に存在し、癌特異性が比較的高いとされていますが、実際の臨床症例においてどの程度凝固活性化に関与しているかどうかについては議論の余地があります。
固形癌症例においては、血中トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)やプロトロンビンフラグメント1+2(F1+2)は高値で、組織因子は2/3例、活性型第VII因子(FVIIa)は半数例で異常高値であったのに対し、内因系凝固活性化のマーカーである活性型第XII因子(FXIIa)はごく一部の症例でのみ高値であったとする報告がみられています。
Kakkar AK, DeRuvo N, Chinswangwatanakul V, Tebbutt S, Williamson RC:Extrinsic-pathway activation in cancer with high factor VIIa and tissue factor. Lancet 346(8981):1004-1005, 1995.
この報告からも、固形癌における凝固活性化機序は、組織因子の関与する外因系凝固活性化が主体であろうと考えられます。
(続く)
【シリーズ記事】
研修医の広場(金沢大学第三内科) ← 当科での研修の様子をご覧いただくことができます。
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 07:13| DIC | コメント(0)