2009年11月01日
悪性腫瘍(癌)とDIC:APL、アネキシンII
悪性腫瘍(癌)とDIC:発症機序から続く
【悪性腫瘍、APLとアネキシンII】
急性前骨髄球性白血病(APL)に合併したDICにおいて線溶活性化が著しい理由として、APL細胞表面上に存在するアネキシンII(annexin II)の果たす役割が大きいことが知られています。
Menell JS, Cesarman GM, Jacovina AT, McLaughlin MA, Lev EA, Hajjar KA: Annexin II and bleeding in acute promyelocytic leukemia. N Engl J Med 340, 994-1004. 1999.
アネキシンIIは、血管内皮細胞、マクロファージ、いくつかの腫瘍細胞などの表面に発現しているCa++/リン脂質結合性の細胞表面膜受容体です。
アネキシンIIは、組織プラスミノゲンアクチベータ(t-PA)およびプラスミノゲンの両者と結合し、このことによりt-PAによるプラスミノゲンの活性化が飛躍的に亢進するために線溶活性化を増強することが知られています。
急性前骨髄球性白血病(APL)における著しい線溶活性化の原因として、従来、線溶阻止因子PAIの発現があまりみられないことや、顆粒球エラスターゼによるPAI、α2PI、フィブリン、フィブリノゲンの分解が指摘されてきましたが、これらに加えてアネキシンIIの果たす役割は極めて大きいと考えられます。
アネキシンIIは、APL以外にもいくつかの他の癌細胞にも発現していることが知られており、癌の浸潤、転移、血管新生との関連が注目されています。
Madoiwa S, Someya T, Hironaka M, Kobayashi H, Ohmori T, Mimuro J, Sugiyama Y, Morita T, Nishimura Y, Tarumoto T, Ozawa K, Saito K, Sakata Y: Annexin 2 and hemorrhagic disorder in vascular intimal carcinomatosis. Thromb Res 119: 229-240, 2007.
Ohno Y, Izumi M, Kawamura T, Nishimura T, Mukai K, Tachibana M: Annexin II represents metastatic potential in clear-cell renal cell carcinoma. Br J Cancer 101: 287-294, 2009.
Shiozawa Y, Havens AM, Jung Y, Ziegler AM, Pedersen EA, Wang J, Wang J, Lu G, Roodman GD, Loberg RD, Pienta KJ, Taichman RS: Annexin II/annexin II receptor axis regulates adhesion, migration, homing, and growth of prostate cancer. J Cell Biochem 105: 370-380, 2008.
固形癌に合併したDIC症例において著しい線溶活性化に伴い高度な出血傾向をきたす症例を時に経験しますが、このような症例において高頻度にアネキシンIIの発現がみられるかどうか興味のあるところです。
また、急性前骨髄球性白血病(APL)に対する全トランスレチノイン酸(ATRA)によりアネキシンIIの発現が強く抑制されるように、アネキシンIIを制御するような治療が可能になれば、線溶活性化と癌浸潤の両者を調節できる治療法が登場することになるかも知れません。
なお、アネキシンIIは腹部大動脈瘤の進展とも関連しており、腹部大動脈瘤に合併することで知られる線溶亢進型DICとの関連も興味ある研究課題ではないかと思われます。
Hayashi T, Morishita E, Ohtake H, Oda Y, Ohta K, Arahata M, Kadohira Y, Maekawa M, Ontachi Y, Yamazaki M, Asakura H, Takami A, Nakao S: Expression of annexin II in human atherosclerotic abdominal aortic aneurysms. Thromb Res 123: 274-280, 2008.
Hayashi T, Morishita E, Ohtake H, Oda Y, Asakura H, Nakao S: Expression of annexin II in experimental abdominal aortic aneurysms. Int J Hematol. 2009 Sep 16. [Epub ahead of print]
(続く)
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 08:55| DIC | コメント(0)