金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2009年11月25日

蛋白漏出性腸症、しびれ:金沢大学統合卒業試験

金沢大学統合卒業試験問題のなかで、当科と関連のある血液内科、呼吸器内科領域の問題解説を続けたいと思います。


設問

60才女性。末梢のしびれ感のため来院した。

現病歴:
2年前に原因不明の蛋白漏出性腸症と診断されて以来、中心静脈栄養と低残渣食の少量摂取を続けている。3か月前より両膝から靴下型のしびれ感が出現。1か月前から両手首から末梢のしびれ感も出現したため、来院。

既往歴・家族歴:
特記すべきことなし。

現症:
意識は清明。身長155 cm、体重45 kg。体温36.1℃。脈拍78/分、整。血圧110/60 mmHg。眼瞼結膜は貧血様、眼球結膜に黄染なし。心音・呼吸音異常なし。腹部は平坦軟で肝・脾・腎を触知しない。下肢に浮腫を認めない。両側Babinski反射陽性で、振動覚低下と末梢の感覚鈍麻を認める。

検査所見:
赤血球数170万/μL、ヘモグロビン8.0 g/dL、ヘマトクリット24%、白血球数2800/μL、血小板数25万/μL、網赤血球2.8万/μL、血清鉄70μg/dL(女性基準60-173)、総鉄結合能250(女性基準246-410)、フェリチン80 ng/mL(女性基準5-120)、葉酸4.2 ng/mL(基準3.1以上)、ビタミンB12 84 pg/mL(基準180-914)、血清銅80 μg/dL(基準70-155)、総ビリルビン0.7 mg/dL、AST 9 IU/L、ALT 11 IU/L、LDH 320 IU/L(基準115-245)、クレアチニン0.3 mg/dL、総蛋白4.2 g/dL、CRP 0.1 mg/dL(基準0.3以下)。上部消化管内視鏡検査上異常はなかった。

 

1)本症例で認められる所見として不適切なものはどれか。

a 大球性貧血
b 末梢神経障害
c 舌炎・舌乳頭萎縮
d 過分葉好中球増加
e 内因子抗体陽性


2)    本症例に対するビタミンB12補充療法に関して、誤っているものはどれか。


a ビタミンB12補充療法開始数か月後から網赤血球が増加し始める。
b ビタミンB12補充療法開始後鉄欠乏になりやすい。
c ビタミンB12補充療法開始後白血球数の回復が期待できる。
d ビタミンB12補充療法開始後LDHの回復が期待できる。
e ビタミンB12補充療法開始後しびれ感の回復が期待できる。



【解説】

蛋白漏出性腸症に伴う吸収不良症候群とビタミンB12の補充不足により、ビタミンB12欠乏症を合併した症例です。ビタミンB12欠乏症は日常診療上比較的遭遇しやすく、診断および治療に関して理解を深めておく必要があります。

1) に関して、a) b) c) d)はいずれもビタミンB12欠乏症に伴う所見です。

内因子抗体は、悪性貧血によるビタミンB12欠乏症の場合にみられます。

 

2)に関して、ビタミンB12補充療法開始後造血は速やかに回復し、3-5日程度で網赤血球が増加し始めます。ですから、a) は誤りです。

赤血球造血が回復しますと、鉄利用が亢進し、鉄欠乏になりやすくなります。

したがって、ビタミンB12補充療法開始後は鉄剤の併用を考慮します。

ビタミンB12補充療法開始後、白血球数や、LDH(増加は主に無効造血を反映)の回復も期待できます。

しびれ感は一般にかなり回復が見込めます。ただし、神経障害や脊髄症状が長期間存在した場合は残存しやすいです。


【正答】

1)e
2)a




【リンク】

血液凝固検査入門(インデックスページ)ー図解ー

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:06| 医師国家試験・専門医試験対策