先天性血栓性素因検査時の注意点:臨床検査からみた血栓症(7)
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先天性血栓性素因の検査時の注意点と結果の解釈
先天性凝固制御因子欠損症は、抗原量は正常でも活性低下を示す分子異常症があります。ですから、抗原量測定しか行わないとこれらのタイプを見落とす可能性がありますので、必ず活性測定を行う必要があります。
ただしプロテインS(PS)活性測定は保険適用外ですので、通常は遊離型PS抗原量測定で代用します。
AT測定の際の注意点:
ヘパリン使用時に採血すると、アンチトロンビン(AT)活性が低下しデータの信頼性が落ちますので注意が必要です。
AT活性低値を示す場合としては、以下のような場合がが考えられます。
1)先天性AT欠損症
2)凝固活性化に伴う消費(播種性血管内凝固症候群:DIC)
3)炎症性サイトカインによる産生低下
4)炎症による血管外漏出(敗血症を基礎疾患としたDICなど)
5)肝機能障害(肝硬変、劇症肝炎、肝不全)による産生低下
6)肝の未発達な乳幼児
7)尿中への喪失(ネフローゼ症候群)
8)薬剤(エストロゲン製剤、L-asparaginaseなど)の影響
PC測定の際の注意点:
PC活性の測定には、凝固時間法(抗凝固活性)と合成基質法(アミド活性)とがあります。合成基質法は簡便で定量性に優れていますが、日本人の静脈血栓塞栓症(VTE)の危険因子として重要なLys196del変異のアミド活性は偽高値となり、凝固時間法による測定を行わないと診断を見落とす可能性があるので注意が必要です。
PC活性低値を示す場合としては、以下のような場合がが考えられます。
1)先天性PC欠損症
2)肝機能障害や肝の未発達な乳幼児
3)ビタミンK(VK)欠乏(食事摂取の低下、抗生物質の長期連用、胆道閉塞)
4)ワルファリン内服によるPIVKA-PCの生成
5)凝固活性化による消費(DIC)(播種性血管内凝固症候群:DIC)
6)血管内皮細胞傷害に基づく血管外漏出や産生低下
ワルファリン投与後に血栓性素因の精査を行うと、先天性欠損症との鑑別はきわめて困難となってしまいます。したがって、血栓性素因が疑わしい症例ではワルファリン投与前の検体保存を心がけるべきです。
PS測定の際の注意点:
活性化PC(APC)に対する補酵素活性を有するのは遊離型PSのみで、この遊離型PSの低下が血中PS活性の低下につながると考えられています。
PS活性低値を示す場合としては、、以下のような場合がが考えられます。
1)先天性PS欠損症
2)肝機能障害
3)ビタミンK(VK)欠乏やワルファリン内服時
4)妊娠、経口避妊薬使用時(意外と知られていないかも知れませんので、要注意です!)
正常妊婦を対象としてPS活性の変動を検討した報告によりますと、分娩時には20-40%にまで著減しますので、PS欠損症との鑑別に注意が必要です。
SLE、抗リン脂質抗体症候群(APS)、ステロイド内服、ネフローゼ症候群でもPS活性が低下します。
なお、一般住民を対象にPS活性を測定したところ、健常者では40%〜170%まで幅広く分布していたという報告があります。
一方で、日本人に多いPS Lys196Glu変異のヘテロ接合体も40%〜110%と重複して分布していますので、PS活性測定だけではPS欠損症の診断には限界があることが判明しています。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:20| 血栓性疾患 | コメント(0)