血栓性素因の妊娠とヘパリン類:TAT、F1+2、Dダイマー
血栓性素因を有した妊娠女性(妊婦)に対して、ヘパリン類による予防治療が行われることがあります。しかし、そのモニタリング法(凝血学的検査)(参考:血液凝固検査入門(図解))に関しては、一定の見解がないのが現状です。
血栓性素因を有した妊婦に対して低分子ヘパリンであるダルテパリン(商品名:フラグミン)を投与し、TAT、F1+2、Dダイマー、抗Xa活性の変動を検討した報告がありますので、紹介させていただきます。
Thromb Haemost 98: 163-171, 2007.
対象:
血栓性素因を有した妊婦で、Factor V Leiden、Prothrombin G20210A、先天性アンチトロンビン(AT)欠損症、先天性プロテインC(PC)欠損症、先天性プロテインS(PS)欠損症、抗リン脂質抗体症候群(抗カルジオリピン抗体 IgG or IgM、ループスアンチコアグラント、抗β2GPI抗体IgG or IgM)と言った血栓性素因を有した症例です。
また、いずれも妊娠合併症の既往がある症例です。
比較群:
低分子ヘパリン投与群では、ダルテパリン(フラグミン)を、20週までは5,000単位/日、その後37週(または出産時)までは5,000単位×2回/日が投与されています(39例)。
もう一方の群では、治療介入されていません(46例)。
採血のタイミング:
登録時(基礎値)、7〜9日後、20週(低分子ヘパリン投与群での薬物増量直前のタイミング)、36週です。
測定項目:
トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)、プロトロンビンフラグメント1+2(F1+2)、D-dimer(Dダイマー)、抗Xa活性。
結果:
TAT、F1+2、Dダイマーは、どちらの群においても、全妊娠経過を通して有意に上昇していました。
低分子ヘパリン投与群では、全妊娠経過を通して抗Xa活性が明らかに上昇していました。
しかし、低分子ヘパリン投与によって、TAT、F1+2、Dダイマーのいずれもマーカーとも低下することはありませんでした(これらのマーカーに関して両群間に有意差はありませんでした)。
結論:
血栓性素因を有する妊婦に対して低分子ヘパリンを投与しても、少なくとも今回の投与方法では凝固活性化を抑制しないものと考えられました。
管理人による補足:
なおこの論文では結果の絶対値に関しましては特に強調されていませんが、妊娠36週の時点で、TATの中央値は両群とも9〜10ng/mL程度(正常値<3〜4 ng/mL)、F1+2の中央値は両群とも700 pM程度(正常値50〜170 pM程度)になっています。やはり、F1+2の上昇の方が目立つようです。
管理人の感想:
今後とも血栓性素因を有した妊婦に対するヘパリン類の投与症例は増加していくのではないかと思いますが、そのモニタリングをどうすれば良いのかに関しては重要な研究課題ではないかと思っています。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:25| 血栓性疾患