骨髄移植と骨髄不全:金沢大学血液・呼吸器内科 中尾教授より-1
金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)では、毎年同門会報が発刊されています。
決して格式張ったものではなく、気軽に手にして読めるものです。
この中で、当科の中尾眞二教授が「10年間の研究のあゆみ」と言うタイトルで原稿を書いていただいています(同門会報の中では、教授コーナーとなっています)。血液内科や当科に関心を持っておられる方々にとって、興味ある内容になっていますので、ブログ記事でもアップさせていただきたいと思います。
ブログ記事にすることで、金沢大学第三内科(血液・呼吸器内科)同門の方々のみならず、全国の皆様に読んでいただけるのがメリットではないかと思っています。
さて、今回は1回目です。
【初めに】
2009年8月1日で、先代の松田保名誉教授から旧第三内科を引き継いで丁度10年が経過しました。
通常であれば10年間を振り返って業績集のようなものを用意すべきなのでしょうが、元来大げさなことが嫌いで、後ろ向きの行事に時間を使いたくないという性質(たち)でもありますので、今回も例年通りの形で同門会報誌を皆様にお届けすることにしました。
ただ、このコーナーでは教室運営の問題点や今後の展望を毎年紹介してきたのですが、今年は一応の節目ではありますので、この10年における私自身の研究の歩みを記しておこうと思います。
血液内科グループの研究の柱は、造血幹細胞移植と、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群などの骨髄不全ですが、今回は誌面が限られているため、主に骨髄不全に関する研究の歩みを紹介します。現在研究に関わっていない先生方にとっては退屈な文章になってしまうことをお許しください。
【骨髄移植と骨髄不全】
私は第三内科に入局して以来、骨髄移植による難治性血液疾患の治療をライフワークとして来ました。
大学院で研究を始めようとした頃、骨髄移植を成功させるためには、臨床だけでなく、造血の調節機構や、移植されたドナーの免疫担当細胞による抗白血病効果のメカニズムを明らかにすることが重要と考えられていました。
当時は「猫も杓子も造血幹細胞コロニー」という時代でしたので、師匠の原田先生に命じられて免疫担当細胞が造血コロニーに及ぼす影響を調べることになりました。
細胞の培養はそれなりに面白い仕事で、移植片中のコロニー形成細胞を測定することは移植臨床においても重要と考えていたのですが、実際の移植臨床では、採取した造血幹細胞が足りないために移植が成立しないということはほとんどありません。移植片が着かないのは、免疫が関与する拒絶が主な原因です。
また、1986年頃にたまたま見ていた国際実験血液学会の抄録集に、凍結保存しておいた自己の骨髄を体に戻す「自家骨髄移植」という治療の際、解凍した骨髄細胞を培養したところ、造血コロニーが全くできない例が何例かあったが、それを使って移植をしても特に問題は起こらなかったという発表がありました。
結局、ヒトの造血を正確に反映する良いアッセイがない限り、造血幹細胞を研究していても移植臨床には結びつかないと思うようになりました。
(続く)
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:59| 血液内科 | コメント(0)