広範型肺血栓塞栓症と播種性血管内凝固症候群(DIC)
国際血栓止血学会誌(J Thromb Haemost. )からの論文を紹介させていただきます。
心肺蘇生法が行われた肺塞栓症例では、DIC所見をきたすというものです。
【論文】
心停止に至った広範型肺血栓塞栓症では、消費性凝固障害を伴ったDIC所見を呈する。
Massive pulmonary embolism leading to cardiac arrest is associated with consumptive coagulopathy presenting as disseminated intravascular coagulation.
J Thromb Haemost. 2010 Mar 19. [Epub ahead of print]
【論文の概略】
広範型肺血栓塞栓症(PE)では、播種性血管内凝固症候群(DIC)類似の消費性凝固障害を呈することが知られています。
著者らは、PE症例の中でも、心肺停止そして心肺蘇生法(CPR)を行った症例においてDIC所見がみられるのではないかとの仮説を立てました。
救急部において1993.6.〜2007.10.の期間に診断されたPE症例を対象としています。
PE 1,018例中、113例においてCPRが施行されました。蘇生された症例が、CPRのなされなかったPE症例と比較されました。
その結果、CPRのなされたPE症例(PE&CPR)では心停止のなかった症例と比較して、Dダイマー(DD)は3倍高く、PT延長、血小板数低下、Fbg低下、AT活性低下はより高度でした(全項目:p<0.001)。
PE&CPRでは、Dダイマー上昇100%、PT延長44%、AT低下53%、Fbg低下19%、血小板数低下2%でみられた。一方、CPRのない症例では、DD上昇99%、PT延長15%、AT低下6%、Fbg低下1%、血小板数低下2%の症例でみられました。
PE&CPRの9%の症例で、DICスコア5以上となり顕性DICの診断基準をみたした。DICスコアは、1年生存率および院内死亡率と高い相関を示しました。
以上、CPRに至った広範型肺血栓塞栓症では、消費性凝固障害を有する顕性DIC所見を呈すると考えられました。
蘇生された症例において、DICマーカーが高値であった場合には、心停止の原因としてPEを考慮すべきと考えられました。
【補足】
1)広範型肺血栓塞栓症とDICスコアの関連を検討した興味ある報告です。
ただし、PEが原因ではない心停止であったとしても蘇生後にDICスコアが動くと考えられますので、この点は今後の検討課題かも知れません。
2)私たちも、最近DIC診断基準をみたす症例で、DVT/PEも併発している症例にしばしば遭遇しています。DIC基準をみたしていても、それで納得してしまうことなく、DVT/PEもあるかも知れないと考えることが重要だろうと思っています。
【リンク】
播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)
血液凝固検査入門(図解シリーズ)
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 02:42| 血栓性疾患 | コメント(0)