金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2010年06月12日

血液専門医試験対策:基礎疾患別のDIC治療法

リンク:播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

血液専門医試験対策:DICの治療薬 より続く。




基礎疾患別のDIC治療法(血液専門医試験対策)


<急性白血病(APL以外)に合併したDICの治療>


急性白血病に対して、適切な化学療法を行うことが最重要です。

抗凝固療法としては、歴史的には、未分画ヘパリン(参考:
ヘパリン類)が頻用されてきましたが、出血の副作用のため、近年はあまり使用されません。出血の副作用が少ない低分子ヘパリン(フラグミン)やDS(オルガラン)の方がヘパリン類の中では使用される機会が多くなっています。ただし、これらのヘパリン類も出血の副作用が全くないという訳ではありません。

メシル酸ナファモスタット(NM:フサンなど)は出血の副作用がないため、白血病が基礎疾患のように出血しやすいDICには良い適応となります。NMは線溶抑制効果も強力であり、線溶亢進型DICに対して有効な治療薬です。

遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤(リコモジュリン:rTM)は、臨床試験の結果によりますと、造血器悪性腫瘍に合併したDICに対しても有効との結果が得られています。

急性白血病では、DICコントロールを行っても血小板数の回復は期待できませんので、しばしばPCの輸注が必要となります。フィブリノゲン著減例や、プロトロンビン時間が著明に延長した症例に対しては、FFPによる凝固因子の補充を行います。



<APLに合併したDICの治療>

APLは、典型的な線溶亢進型DICを発症します。

APLに合併したDICの特殊性として、
all-trans retinoic acid(ATRAによる治療があります。ATRAは、APLの分化誘導として有効ですが、APLに合併したDICに対してもしばしば著効します。

APLにおいて線溶亢進型DICを合併する理由は、APL細胞に存在するアネキシンIIの果たす役割が大きいことが知られています。アネキシンIIは、組織プラスミノゲンアクチベーター(tissue plasminogen activator:t-PA)と、プラスミノゲンの両線溶因子と結合して、このことでt-PAによるプラスミノゲンの活性化能が飛躍的に高まります。

APLに対してATRAを投与しますと、APL細胞中のTFおよびアネキシンIIの発現も抑制されます。このため凝固活性化と線溶活性化に同時に抑制がかかり、APLのDICは速やかに改善します。

なお、前述のように、
APLに対してATRAを投与している場合には、トラネキサム酸(TA:トランサミン)は絶対禁忌です。



<敗血症に合併したDICの治療>

感受性を有した抗生剤投与が最重要です。

敗血症に合併したDICにおいては多くの例で、
アンチトロンビン活性が低下しますので、アンチトロンビン(AT)濃縮製剤が必要となることが多いです。充分な凝固活性を期待するためには、ヘパリン類を併用します。

遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤(リコモジュリン:rTM)は、敗血症に合併したDICに対しても有効です。AT濃縮製剤とrTMの併用が認められる医療環境になって欲しいところですが、現時点では不明です。

肝不全合併のため、PT著明延長やフィブリノゲン著減がみられることがあり、この場合にはFFPを投与します。

食事摂取ができない状態で長期間の抗生剤が投与されることに伴って、ビタミンK欠乏症を併発する可能性がありますので、ビタミンK の予防投与(点滴)を行っておく方が無難です。



<固形癌に合併したDICの治療>

DICを合併した固形癌においては多くの場合、全身転移をともなった進行癌症例です。化学療法で腫瘍量の低下が期待できない場合のDIC治療は困難です。

ただし、進行癌であってもDICの治療を行うことで、十分な予後改善が期待できる場合もあります。管理人らは、進行癌でDICの治療により、1年以上の生命予後が可能となった症例を蓄積しています。

抗凝固療法としては、
ヘパリン類の投与を行います。患者を持続点滴で拘束したくない場合には、DS(オルガランによる加療が有用です。

一部の固形癌に合併した症例では線溶亢進型DICの病型となります。この場合には、
メシル酸ナファモスタット(NM:フサンなど)またはヘパリン類&TA併用療法が、出血症状に対して著効します。


<参考文献>

1) Levi M, Ten Cate H: Disseminated intravascular coagulation. N Engl J Med 19: 341: 586-592, 1999.

2)日本血栓止血学会学術標準化委員会DIC部会. 科学的根拠に基づいた感染症に伴うDIC治療のエキスパートコンセンサス. 日本血栓止血学会誌 20: 77-113, 2009.



【リンク】

播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

血液凝固検査入門(図解シリーズ)

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金沢大学 血液内科・呼吸器内科ブログ

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:45| DIC | コメント(1)

◆この記事へのコメント:

この記事に対して、コメント欄でのご質問が書かれていたのですが、本名が書かれていましたので、公開手続きをとらずに、質問内容の紹介の形とさせていただきます。

(以下がご質問内容です)
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臨床獣医師をしています。1年程前からこのブログを見て良く勉強させてもらってました。最近、疑問に思ったことがあり、質問させて下さい。獣医領域では凝血学的検査が充分に出来る環境ではないのですが、DICを疑う時にPT,APTT,Fib,FDPを調べることがあります。そこでナファモスタット投与時におけるPT,APTTの評価についてなんですが、臨床検査の教科書では延長すると書いてあることがありますが、先生のブログではこの事について書いてはないのですがどうですか?もう一点、術後FDPはどの程度高値になり、どのくらいの期間続きますか?手術の内容、出血、血餅の量にもよるとは思いますが、獣医領域ではこれ以上の検査が出来る状況ではないので宜しく御願いします。
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(以上がご質問内容です)

(以下、分かる範囲内で回答させていただきます)
 人と動物では事情が異なるかも知れませんが、人では治療量のメシル酸ナファモスタットを用いてもPTやAPTTが延長することはありません。

 人では、0.06〜0.20mg/kg/時間を24時間持続点滴します(平均的体重の人では、200mg/24時間くらいです)が、動物での投与量は如何でしょうか。

 術後FDP上昇に関しましては、ご指摘の通り、手術の種類や規模によって変わると思います。人では、20〜30μg/mLの上昇は珍しくありません。

 以上、簡単ではございますが、分かる範囲内で書かせていただきました。

投稿者:血液内科・呼吸器内科: at 2010/06/28 15:54

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