先天性第V因子欠損症における出血症状が軽症である理由
先天性第V因子欠損症は、血液凝固第V因子が1%未満の重症例であっても、出血症状は軽症であることが知られています。
今回紹介させていただく論文は、その理由について検討した興味ある報告です。
「先天性第V因子欠損症(重症)における出血症状が軽症である理由」
著者名:Duckers C, et al.
雑誌名:Blood 115: 879-886, 2010.
<論文の要旨>
血漿および血小板中の血液凝固第V因子(FV)は、トロンビン形成に不可欠ですが、第V因子活性が検出されないような症例においても大出血はほとんどみられません。
著者らは、先天性第V因子欠損症(重症)(FV<1%)の4症例において、血小板中第V因子の役割を明らかにするため、トロンビン形成試験による検討を行っています。
その結果、乏血小板血漿(PPP)を用いた場合には、組織因子(TF)を50pMまで増量してもトロンビン形成はみられませんでした。
一方、多血小板血漿(PRP)を用いた場合には、TF1〜5pMにおいてトロンビン形成がみられました。
第V因子欠損症症例からのPRPを用いたトロンビン形成は、血小板活性化剤(コラーゲン、Caイオノフォア)によってほぼ正常レベルまで増幅されましたが、第V因子インヒビターによって完全に抑制されました(FV依存性であることが証明されました)。
全4症例において、血小板中のFV抗原&活性は測定可能であり、FVaの存在がwestern blottingで証明されました。
FV欠乏症においては組織因子経路インヒビター(TFPI)が低値であることが知られていますが、このTFPIを補正して正常化すると、PRP血漿においてもトロンビン形成が完全に抑制されました。
以上、重症の先天性第V因子欠損症において、血小板中に機能を有するFVが含まれますが、TFPIが低い状態でのみトロンビン形成が行われ、この両要因が本症例において致命的な出血のない理由と考えられました。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 02:39| 出血性疾患