新生児の抗リン脂質抗体症候群:小児APS(5)
小児における抗リン脂質抗体症候群:小児APS(4)より続く。
【新生児APS】
新生児期は、血液凝固・線溶システム(参考:血液凝固検査入門)が未熟で、凝固阻止因子(プロテインC、プロテインS、アンチトロンビン)濃度の低下や線溶能の低下を認め、さらには血管内カテーテル留置などの頻度が高く、血栓症をおこしやすい時期です。
新生児抗リン脂質抗体症候群(APS)はきわめてまれな後天性新生児血栓症で、重篤になりやすく死に至る場合もあります。胎盤経由の母親由来抗リン脂質抗体(aPL)が原因であるとの証拠が増えつつありますが、反論もあり結論は得られていません。
<症状>
過去20年間の文献をメタ解析したBoffaらの報告によりますと、aPL陽性新生児16例のうち、8割が動脈血栓症を発症し、半数が脳虚血発作を認めました。
Boffa MC, et al.: Infant perinatal thrombosis and antiphospholipid antibodies: a review. Lupus 16: 634, 2007.
ほとんどの症例が血栓症の危険因子として、aPL陽性に加えて血管内カテーテル留置、敗血症、仮死分娩、先天性血栓性素因などを有しており、3/4の新生児血清中に母親と同じaPLが検出されました。
したがって、aPL陽性妊婦から産まれた新生児に対しては、1週間以内に血清中aPLの検査と他の血栓症の危険因子について検索し、血栓症の発症に備えるべきと考えられます。
また、APSの母親から産まれた小児は、学習障害をきたす確率が健常児に比べて有意に高いという報告もあります(26.7% vs 4%)。
Nacinovich r, et al.: Neuropsychological development of children born to patients with antiphospholipid syndrome. Arthritis Rheum 59: 345, 2008.
in vitroの実験では、aPLが脳組織や脳血管内皮細胞に直接結合することが明らかになっており、動物実験においても長期間aPLに暴露されたマウスは行動異常を示します。
このような実験結果は、胎盤経由で移行したaPLが、胎児の脳神経発達に障害を与える可能性を示唆しています。
したがって、aPL陽性の母親から産まれた小児に対しては、神経精神発達の評価を定期的に長期間経過観察することが推奨されています。
(続く)
【リンク】
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:26| 血栓性疾患