敗血症と凝固・DIC(6)活性化プロテインC(APC)臨床試験
敗血症と凝固・DIC(5)活性化プロテインC(APC)治療 より続く
敗血症と凝固・DIC(6)敗血症に対する活性化プロテインC(APC)臨床試験
重症敗血症を対象にした遺伝子組換えヒトAPC(rhAPC)の臨床試験(PROWESS study)の結果は、当時極めて大きなインパクトをもって世界に発信されました。
Bernard GR, Vincent JL, Laterre PF, et al. Efficacy and safety of recombinant human activated protein C for severe sepsis. N Engl J Med. 2001; 344: 699-709.
対象症例は1,690例で、約75%の症例が多臓器不全を有していました。
診断後24時間以内にrhAPCが投与されたところ、28日後の時点における死亡率はrhAPC群24.7%(プラセボ群30.8%)でした(p=0.005)。
その後の報告では、1回以上の出血をきたしたのは、rhAPC群24.9%、プラセボ群17.7%でした(p=0.001)。
Fumagalli R, Mignini MA. The safety profile of drotrecogin alfa (activated). Crit Care. 2007; 11 Suppl 5:S6.
また、重症出血は、rhAPC群3.5%、プラセボ群2.0%(p=0.06)と、rhAPC投与群で高頻度の傾向にありました。
サブ解析の結果では、rhAPCの有用性が高いのは、APACHE IIスコアが25以上の重症例であることが判明しました。
Ely EW, Laterre PF, Angus DC. Drotrecogin alfa (activated) administration across clinically important subgroups of patients with severe sepsis. Crit Care Med. 2003; 31: 12-9.
これらの結果を受けて、欧米では、rhAPCは致命的な重症敗血症に対して保険認可されています。
ただし、この認可に対しては否定的な見解もあります。その理由としては、PROWESS臨床試験中にプロトコールに修正が加えられたこと(除外項目として、28日以内に死亡すると思われる症例などが加えられました)、製造方法の変更があったことなどが指摘されています。
また、APACHE IIスコアを継続して評価することは難しく、しかも加療開始後スコアが速やかに変化していくために、サブ解析においてAPACHE IIスコアを主項目とするのは問題ではないかという指摘もありました。
Warren HS, Suffredini AF, Eichacker PQ, et al. Risks and benefits of activated protein C treatment for severe sepsis. N Engl J Med. 2002; 347: 1027-30.
Poole D, Bertolini G, Garattini S. Errors in the approval process and post-marketing evaluation of drotrecogin alfa (activated) for the treatment of severe sepsis. Lancet Infect Dis. 2009; 9: 67-72.
これらの疑問点を解決するために、rhAPCを重症敗血症の早期症例(臓器障害が一つの臓器のみ、またはAPACHE IIスコアが25未満)に投与して評価する臨床試験が行われました。
しかし、この臨床試験は、rhAPCの有効性が見いだされなかったために、2,640例登録された時点で中断となっています(28日後の死亡率:rhAPC群 18.5%、プラセボ群 17%、p=0.34; 院内死亡率: rhAPC群 20.6%、プラセボ群 20.5%、p=0.98;薬物投与期間中の高度出血: rhAPC群 2.4%、プラセボ群 1.2%、p=0.02 )。
Abraham E, Laterre PF, Garg R, et al. Drotrecogin alfa (activated) for adults with severe sepsis and a low risk of death. N Engl J Med. 2005; 353: 1332-41.
小児を対象とした臨床試験においても、やはりrhAPCの有用性は示されませんでした。
Nadel S, Goldstein B, Williams MD. Drotrecogin alfa (activated) in children with severe sepsis: a multicentre phase III randomised controlled trial. Lancet. 2007; 369(9564): 836-43.
これらの追加された臨床試験の結果から、rhAPCを重症敗血症に対して広く使用するのには問題があると結論付けられましたが、多臓器不全を合併し予後不良と考えられる症例に対しては処方意義がありガイドラインに組み見込まれています。
Carlet J. Prescribing indications based on successful clinical trials in sepsis: a difficult exercise. Crit Care Med. 2006; 34: 525-9.
Dellinger RP, Carlet JM, Masur H. Surviving Sepsis Campaign guidelines for management of severe sepsis and septic shock. Intensive Care Med. 2004; 30: 536-55.
(続く)敗血症と凝固・DIC(7)活性化プロテインC(APC)の今後 へ
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:58| DIC