ワーファリン内服とINR家庭内測定
家庭内で行う血液検査としては、糖尿病の患者さんにおける血糖値測定をすぐに思いつきます。この他には、海外ではワルファリンコントロールで用いられるINR(PT-INR)もあります。
日本でも、将来はワーファリン内服中の患者さんが、自宅でINRを測定する時代が来るかも知れません。
今回紹介させていただく論文は、INR家庭内測定に関する、N Engl J Medの論文です。
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「INR家庭内測定の臨床的意義について」
Effect of home testing of international normalized ratio on clinical events.
著者名:Matchar DB, et al.
雑誌名:N Engl J Med. 2010; 363(17):1608-1620.
<論文の要旨>
ワルファリンによる抗凝固療法は、心房細動や人工弁置換術後の症例における血栓塞栓合併症を減らすことが知られていますが、そのコントロールは煩雑であり、INRはしばしばコントロール域を外れることがあります。
静脈採血による血漿検体を用いた測定法と比較して、point-of-care(POC)検査としてのINR家庭内測定は、頻繁に検査を行うことができて臨床上のメリットがある可能性があります。
著者らは、ワルファリン内服中の心房細動や人工弁置換術後の症例2,922例を対象に、POC家庭内検査(1回/週)またはクリニックにおける精度の高い検査(1回/月)を行い比較検討しました。
一次エンドポイントは、最初の大イベント(脳梗塞、大出血、死亡)までの期間としました。2.0〜4.75年の追跡が行われました(全体で8,730症例・年)。
その結果、最初のイベントまでの期間は、POC群で有意に長いという結果は得られませんでした。
また、臨床所見に関しては、POC群において小出血の回数がより多かったことを除いて、二群間に差はみられませんでした。
全経過を通して評価すると、INRがコントロール域に入っていた期間は、POC群の方がわずかではあるが有意に長期間でした。
また経過観察2年目において、POC群においては抗凝固療法に対する患者の満足度やQOLが高いという結果でした。
以上、POC家庭内検査(1回/週)はクリニックにおける精度の高い検査(1回/月)と比較して、脳梗塞、大出血、死亡までの期間を長くするということはなく、POC家庭内検査の有用性を支持する結果となりませんでした。
(備考)
この報告は否定的見解ではありますが、POC家庭内検査は、患者の通院間隔を伸ばし、出血があった場合の簡便な検査としての意義はあるように思われます。
また、検査項目はINRのみで良いかどうかも検討の余地があるかも知れません。
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:53| 抗凝固療法