金沢大学・血液内科・呼吸器内科
※記事カテゴリからは過去の全記事をご覧いただけます。
<< 前のエントリトップページ次のエントリ >>
2011年03月27日

活性化プロテインC、リコモジュリンとDIC

血管内皮

 

AT:アンチトロンビン、TFPI:組織因子経路インヒビター、T:トロンビン、TM:トロンボモジュリン、PC:プロテインC、APC:活性化プロテインC、Va:活性型第V因子、VIIIa:活性型第VIII因子、t-PA:組織プラスミノゲンアクチベータ。


血液は血管内循環中は凝固しませんが、この点で血管内皮の果たす役割は大きいです。

具体的には、血管内皮にはトロンボモジュリン(thrombomodulin:TM)ヘパリン様物質プロスタサイクリン(PGI2)、一酸化窒素(NO)組織プラスミノゲンアクチベータ(t-PA)などの抗血栓性物質が存在または産生されています。


この中でも、プロテインC(protein C:PC)-TMシステムの意義は大きいです。

トロンビンが産生されて血管内皮上のTMと結合しますと、トロンビン- TM複合体が形成されます。

この複合体は、プロテインCを活性化プロテインC(activated protein C:APC)に転換します。

APCは、活性型第V因子と、活性型第VIII因子を不活化することで、抗凝固活性を発揮します。

トロンビンは、その本来の性格は向凝固性ですが、TMと複合体を形成することによりAPCの産生に寄与するという観点から、抗凝固性の性格に転換することになります。


APCは、日本では、アナクトCの商品名で製剤が存在します。

本薬は、播種性血管内凝固症候群(DIC)の臨床試験が日本で行われた経緯がありますが、DIC治療薬としては認可されませんでした。

Aoki N, et al.:A comparative double-blind randomized trial of activated protein C and unfractionated heparin in the treatment of disseminated intravascular coagulation. Int J Hematol 75:540, 2002.


アナクトCは、現在、先天性プロテインC欠乏症に起因する深部静脈血栓症、急性肺血栓塞栓症電撃性紫斑病に対してのみの認可となっています。これらの疾患は稀であるために、日本においてAPC製剤が使用されることは極めて少ないと思われます。


播種性血管内凝固症候群(DIC)のガイドライン的な文献としては、日本血栓止血学会誌に掲載されたものが存在しますがDICに対するAPC製剤は記載されていません。

日本血栓止血学会学術標準化委員会DIC部会:日本血栓止血学会誌 20: 77, 2009.

なおこれが作成された時は、TM製剤(リコモジュリン)もまだ使用できない時期であったためTM製剤の記載もなされていません(改訂版の登場が待たれます)。

海外では、DICではなく重症敗血症を対象にしたAPCの臨床試験(PROWESS study)があります(敗血症と凝固・DIC/抗炎症効果:活性化プロテインC)。

Bernard GR, et al. : Efficacy and safety of recombinant human activated protein C for severe sepsis.

N Engl J Med 344: 699. 2001.

APCが投与されたところ、28日後の時点における死亡率はAPC群24.7%(プラセボ群30.8%)でした(p=0.005)。

しかし、その後の報告では、APC投与群では出血の有害事象が有意に高頻度であること、本薬は多臓器不全を合併し予後不良と考えられる症例に対してのみ有効であることなどの議論がなされています(活性化プロテインCの臨床試験)。


トロンボモジュリンアルファ(TM製剤)は商品名リコモジュリンとして、現在DICの適応を有しています。本薬は日本で質の高い臨床試験が行われました。

Saito H, et al.: Efficacy and safety of recombinant human soluble thrombomodulin (ART-123) in disseminated intravascular coagulation: results of a phase III, randomized, double-blind clinical trial. J Thromb Haemost 5: 31. 2007.

造血器悪性腫瘍および重症感染症を基礎疾患としたDIC(n=234)に対して、TM製剤または低用量未分画ヘパリン6日間が投与される二重盲見無作為臨床試験の結果、TM製剤投与群でのDIC離脱率が66.1%に対して、ヘパリン投与群でのDIC離脱率は49.9%に留まりました。

また、TM製剤投与群では出血症状の改善が有意に高率でした。

出血と関連した有害事象は、TM製剤投与群では43.1%だったのに対して、ヘパリン投与群では56.5%に達しています。

このように、TM製剤を投与した場合に、DIC離脱率そして出血の軽減の観点から優れた効果を発揮するものと考えられます。

現在TM製剤の適応疾患はDICのみですが、 TMには抗凝固活性のみならず強力な抗炎症効果の存在が知られています(炎症性サイトカインの抑制、LPSやHMGB-1の吸着など)。

今後、DICの合併の有無にかかわらず敗血症に対して有効かどうか、他の炎症性病態に対して有効かどうかなど検討したい課題が多いです。


なお、TM製剤はヘパリンと比較して使用しやすい薬物ですが、腎代謝されるために、腎不全症例では使用量を減ずる注意が必要です。

また、出血の副作用を増加させないようにするため、ヘパリン類との併用は行わない方が良いです。

アンチトロンビン製剤との併用は期待する専門家が多いですが、結論は出ていません(保険診療上の扱いも不明です)。

 

【リンク】

血液凝固検査入門(図解シリーズ)

播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

金沢大学血液内科・呼吸器内科HP

金沢大学血液内科・呼吸器内科ブログ

研修医・入局者募集

投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:43| DIC