PNHと血栓症(5):TFPIと凝固
PNHと血栓症(4):血管内皮障害より続く。
<PNH血栓症の発症機序(2)>
組織因子経路インヒビター(tissue factor pathway inhibitor:TFPI)は外因系凝固活性化機序を抑制する重要な凝固阻止因子です。
TFPIは、主に血液中および血管内皮細胞上のグリコサミノグリカン(GAG)に結合した状態で存在し、その産生場所は主として血管内皮細胞ですが、血小板、単球などの細胞からも産生されます(肝での産生はありません)。
TFPIは、血管内皮グリコサミノグリカンのみでなく、未だ同定されていないGPIアンカー型蛋白を介して各種細胞の細胞膜に結合しています。
このため、PNH症例のGPIアンカー欠損単球(&可能性として血管内皮)にはTFPIが結合することができずに、凝固活性化状態になる可能性があります。
Zhang J, Piro O, Lu L, et al. Glycosyl phosphatidylinositol anchorage of tissue factor pathway inhibitor. Circulation. 2003; 108: 623-7.
血小板に関しては、非活性血小板上にはTFPIは発現していませんが、コラーゲンおよびトロンビンによって刺激された活性化血小板にはTFPIおよびいくつかの向凝固性蛋白が発現します。
GPI欠損血小板ではこの場合でもTFPIの発現はなく、血栓傾向に寄与する可能性があります。
好中球にはproteinase 3(PR3)が発現していますが、この蛋白は血栓阻止的に作用してます。
PR3は、GPIアンカー型蛋白であるNB1(CD177)を介して細胞膜に結合しています。
GPIアンカー欠損好中球ではPR3は存在せず、循環血中のPR3濃度とPNH顆粒球クローンサイズは負の相関を示すと報告されています。
このPR3はトロンビンによる血小板活性化を抑制するために、PR3の欠損したPNH血小板は活性化されやすいです。
Jankowska AM, Szpurka H, Calabro M, et al. Loss of expression of neutrophil proteinase-3: a factor contributing to thrombotic risk in paroxysmal nocturnal hemoglobinuria. Haematologica. 2011; 96: 954-62.
PNHにおいてGPIアンカー型蛋白が欠損していることと、血栓症との関連は充分に明らかな訳ではありません。
エクリズマブにより加療を行うと血栓症の発症は明らかに低下しますが、GPIアンカー型蛋白が欠損した白血球や血小板の割合は変化しません(赤血球ではむしろ割合が上昇します)。
一方で、GPIアンカー合成に必要な他の遺伝子であるPIG-M遺伝子の先天性欠損症では溶血をきたすことはないが血栓症発症が多いことが知られています。
Almeida AM, Murakami Y, Layton DM, et al. Hypomorphic promoter mutation in PIGM causes inherited glycosylphosphatidylinositol deficiency. Nat Med. 2006; 12: 846-51.
(続く)PNHと血栓症(6):遊離型ヘモグロビンとNO へ
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:57| 血栓性疾患