金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2013年01月30日

出血傾向(6):医師国家試験対策 (鼻出血、出産時大量出血)

出血傾向(5):医師国家試験対策 (凝固異常と血液検査)より続く

参考:血栓止血の臨床日本血栓止血学会HPへ)


【臨床問題(1)】

20歳女性。幼少時よりしばしば鼻出血を認めていた。2ヶ月前の出産時に大量出血をきたし止血が困難であった(一週間持続後、止血)。出血性素因の精査目的に、近医産婦人科より紹介された。

現症:意識清明、紫斑なし、貧血なし、ほか異常所見なし。

血液学的検査:白血球 7,100、赤血球 358万、Hb 12.9g/dl、血小板 24.5万、PT 11.0秒(基準10〜14)、APTT 71.2秒(基準対照32.2)、FDP 3μg/ml(基準10以下)、出血時間は著明に延長。

妹も、幼少時よりしばしば鼻出血を認めていた。
    
この時点で、行うべきことは何か。
a. 内服薬の確認
b. 関節腫脹の有無を確認
c. von Willebrand因子の測定
d. DDAVPの点滴
e. 血漿由来第VIII因子製剤の輸注


(症例)
女性患者で出産時の大出血。幼少時からの出血傾向があることと、妹にも出血症状がみられます。


(解説)

・既往歴(鼻出血という粘膜出血)および家族歴(妹にも粘膜出血がみられる)より先天性出血性疾患と考えられます。

・今回は出産時の大出血(粘膜出血)をきっかけに精査目的の受診となりました。設問内容のみでも、von Willebrand病が強く疑われます(女性であるため血友病は速やかに否定されます)。

・また、APTT(凝固検査)と出血時間(血小板関連検査)の延長という、von Willebrand病に特有の検査所見になっています。


(最初に行うべきこと)

・出産時の大出血が受診のきっかけではありますが、受診時点では止血しており、しかも貧血はみられていません。DDAVP(デスモプレシン)や血漿由来第VIII因子製剤は、von Willebrand病の止血治療に用いられていますが、特に出血していない時には必要ありません。まず、診断を確定することが最も重要です。

・内服薬では、NSAID(血小板機能を抑制する)による出血傾向が有名ですが、先天性出血性素因が強く疑われている本症例で早々に確認する必要はありません。関節腫脹は、血友病(伴性劣性遺伝)でみられる出血症状です。本例は女性であるため、血友病は考えられません。

・von Willebrand病の確定診断のためには、少なくともvon Willebrand因子(VWF)活性、VWF抗原の測定が最も優先されます。その他には、血小板凝集能のうちリストセチン凝集の欠如、第VIII因子活性の低下も確認しておきたいです。VWFは、第VIII因子のコファクターであるため、von Willebrand病では第VIII因子活性も低下します。


(考察)

1)家族歴、現病歴:先天性出血性素因を疑います。国試で問われる先天性出血性素因は、血友病A&B、von Willebrand病、血小板無力症、Bernard-Soulier症候群の5疾患を知っていれば充分です。

2)身体所見(症状):出産時出血、鼻出血ともに、粘膜出血です。

3)検査:血小板数が正常ですが、出血時間が延長していますので、血小板機能低下があると考えられます。加えてAPTTが延長していますので、von Willebrand病が強く疑われます。確定診断のために、VWFの測定を行えば良いです。

4)今現在出血している訳ではありませんので、止血治療は現在は必要ないです。ただし、将来の外傷、抜歯時の異常出血や、手術時の止血管理目的には、血漿由来第VIII因子製剤(商品名:コンファクトF、血漿由来であるため、第VIII因子のみでなくVWFも含有されます)が必要となります。

出血が軽度であれば、DDAVPでも良いです(DDAVPは血管内皮からVWFを遊離させる作用があります)。

なお、遺伝子組換え第VIII因子製剤(VWFは含有されない)は、von Willebrand病に対して無効です。

参考:止血剤の種類と疾患

 

(正答) c


(続く)出血傾向(7):医師国家試験対策 (紫斑、胆石)

 

<リンク>

血液凝固検査入門(図解シリーズ)
播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)
金沢大学血液内科・呼吸器内科HP
金沢大学血液内科・呼吸器内科ブログ
研修医・入局者募集

投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:55| 医師国家試験・専門医試験対策