医師国家試験の問題紹介と解説(2)臀部の痛み
医師国家試験の問題紹介と解説(1)より続く。
13歳の男子.
左臀部の痛みを主訴に来院した.2日前,運動後に左殿部の痛みを自覚し,その後同部に腫れも出現した.同様のエピソードは過去に経験したことがないという.
意識は清明.体温36.2℃.脈拍84/分,整.血圧116/72mmHg.左殿部は硬く腫脹し,圧痛を認める.発赤と皮疹とを認めない.
血液所見:赤血球375万,Hb 11.2g/dl,Ht 35%,白血球6,800,血小板38万,PT 11.0秒(基準10〜14),APTT 56.0秒(基準対照32.2), フィブリノゲン220mg/dl(基準200〜400),血清FDP 12μg/dl(基準10以下).CRP 0.3mg/dl.
殿部痛の原因として最も考えられるのはどれか.
a 帯状疱疹
b 筋肉内出血
c 坐骨神経痛
d 腸腰筋膿瘍
e 大腿骨頭壊死
(解説)
左臀部の痛み・腫脹・圧痛は何を意味するのか、そしてAPTTの明らかな延長は何を意味するのかを問うています。左臀部の痛み・腫脹・圧痛は、筋肉内出血を疑います。運動が契機になっていることもヒントになっています。
筋肉内出血(深部出血)の原因が分かれば、さらに自信を持って解答することができるでしょう。
APTTが延長している出血性素因として有名なのは、血友病A、血友病B、von Willebrand病です。
血友病は、関節内出血、筋肉内出血などの深部出血が特徴的です。von Willebrand病は、鼻出血などの粘膜出血が特徴的です。
診断は血友病です。
a 発赤と皮疹とを認めないと書かれていますので、否定的です。
b 正しいです。
c 坐骨神経痛では、腫脹はみられません。
d 腸腰筋膿瘍は、炎症反応(白血球やCRPの上昇)がないため否定的です。
e 大腿骨頭壊死では、左殿部の痛み・腫脹・圧痛はみられません。
「同様のエピソードは過去に経験したことがない」というのは、若干意地悪な記載にも感じられます。できれば「過去に関節内出血の既往がある」という記載にして欲しかったところです。
管理人は、高齢の男性で重症の筋肉内出血がみられ、紹介されたことがあります(関節内出血の既往なし、家族歴もなし)。第VIII因子活性が低下しており血友病Aが疑われますと紹介状に書かれていましたが、実際は後天性血友病でした。紹介医は、後天性血友病を知らなかったようです。
後天性血友病はまれな疾患と記載されてきましたが、意外と埋もれた症例が多いのかも知れません。
【第VIII因子インヒビター】
第VIII因子に対するインヒビター(抗体)が出現するのは、以下の2つの場合があります。
1)血友病A: 血友病Aに対して治療目的で第VIII因子製剤を投与することで、血中にインヒビター(同種抗体)が出現する場合(血友病A患者にとって第VIII因子は未知の蛋白である)。血友病A治療に伴う重要な合併症です。
2)後天性血友病:自己免疫性疾患、悪性腫瘍、妊娠、高齢などを背景に(はっきりとした背景がないこともあります)、第VIII因子に対する抗体(自己抗体)が出現します。まれな疾患ですが、この病気を知っているかどうかで、患者さんを救命できたり不幸な転帰になったりすることがあると考えられます。先天性の血友病とは無関係で、男性にも女性にも発症します。皮下出血や筋肉内出血がみられます。第VIII因子活性が低下する病態ですが、何故か関節内出血はほとんどありません。
<リンク>
播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)へ
金沢大学血液内科・呼吸器内科HPへ
金沢大学血液内科・呼吸器内科ブログへ
研修医・入局者募集へ
参考:血栓止血の臨床(日本血栓止血学会HPへ)
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:27| 医師国家試験・専門医試験対策