金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2013年04月19日

後天性血友病(1)概念、疫学、病態

後天性血友病(1)

参考;後天性血友病とは:インデックスページ


<概念>

後天性血友病Aとは、第VIII因子(FVIII)に対する自己抗体が出現し、その結果第VIII因子活性(FVIII:C)の低下をきたし後天的に出血症状を発症する疾患です。

FVIII遺伝子異常により先天性にFVIIIが低下する先天性血友病Aとは、全く異なる疾患です。

2011年に日本血栓止血学会が『後天性血友病A診療ガイドライン』を作成しましたので、本疾患の診断ならびに治療に際しては必ず一読されることをお薦めしたいと思います。本シリーズでは、このガイドラインを基に概説したいと思います。

田中一郎ほか:日本血栓止血学会後天性血友病A診療ガイドライン.血栓止血会誌22:295-322, 2011.


<疫学>

発症率は、最近の英国からの報告によると100万に対して1.48人と言われています(ただし、これは実状よりも相当に低く見積もられているのではないかと、管理人らは考えています)。

Collins PW, et al: UK Haemophilia Center Doctors’ Organization: Acquired hemophilia A in the United Kingdom: a 2-year national surveillance study by the United Kingdom Haemophilia Center Doctors’ Organization. Blood 109:1870-1877, 2007.

本症はまれな疾患と考えられてきましたが、最近認知度が高くなり、従来の報告よりも相当に発生数が多いものと推測されます。

日本血栓止血学会学術標準化委員会が実施した調査結果(2008年)によりますと、性差は明らかではありません(男女比=1:0.9)。

発症年齢は、女性を中心とした20−30歳台のピークと70歳台を頂点とする60−80歳台のピークを示します。

田中一郎ほか:わが国における後天性凝固因子インヒビターの実態に関する3年間の継続調査—予後因子に関する検討—.血栓止血会誌19:140-153, 2008.


<病因>

FVIIIに対する自己抗体の発生機序はいまだ不明な点が多いですが、本邦での調査によりますと、自己免疫性疾患(17%)や悪性腫瘍(17%)、妊娠/分娩(6%)などの基礎疾患を有する場合が75%以上みられます。

また、本症は高齢者の発症も多いことから、加齢も要因の一つと考えられます。

基礎疾患の詳細につきましては、上記の調査報告書を参照していただければと思います。


<病態>

今までに出血性素因がなく出血の家族歴もない成人が、突然広範で重篤な皮下・筋肉内出血を発症します。

最も頻度が高い出血症状は皮下出血で、特に打撲部位、注射部位におきやすいです。

この他、重篤な腹腔内出血や後腹膜出血、卵巣出血、胸腔内出血で発症する場合もあります。

先天性血友病に比べ重篤なものが多く、また先天性血友病で多く見られる関節内出血がまれな点も特徴です。

一方、出血症状が全くみられず、術前検査などで偶然発見される場合や、軽度の出血症状で治療を要しない症例が3割程度みられます。


嶋緑倫:後天性凝固異常症の病態と治療:後天性血友病を中心に.臨床血液51:211-218, 2010.


(続く)後天性血友病(2)診断、鑑別診断


<リンク>

血液凝固検査入門(図解シリーズ)
播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)
金沢大学血液内科・呼吸器内科HP
金沢大学血液内科・呼吸器内科ブログ
研修医・入局者募集

参考:血栓止血の臨床日本血栓止血学会HPへ)

投稿者:血液内科・呼吸器内科at 20:23| 出血性疾患