金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2013年04月20日

後天性血友病(2)診断、鑑別診断

後天性血友病(1)概念、疫学、病態より続く。


後天性血友病(2)

参考;後天性血友病とは:インデックスページ


<診断>

田中一郎ほか:日本血栓止血学会後天性血友病A診療ガイドライン.血栓止血会誌22:295-322, 2011.

嶋緑倫:後天性凝固異常症の病態と治療:後天性血友病を中心に.臨床血液51:211-218, 2010.


診断手順としては、高齢者あるいは分娩後の女性に原因不明の出血症状を認めたらまず本疾患を疑い、次に述べる血液検査を実施していきます。

検査

出血傾向のスクリーニング検査の中で、血小板数、出血時間、フィブリノゲン値、プロトロンビン時間(PT)は正常で、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)のみが延長を認めます。

このような場合FVIII:Cの測定を行い、低下していた場合は抗FVIIIインヒビター定性試験としてAPTTクロスミキシング試験(APTT交差混合試験)を行います。


FVIII:C測定

本邦の前向き調査によりますと、初診時に半数以上の症例でFVIII:Cが検出されます。

田中一郎ほか:わが国における後天性凝固因子インヒビターの実態に関する3年間の継続調査—予後因子に関する検討—.血栓止血会誌19:140-153, 2008.

しかし、後天性血友病では出血症状の重症度とFVIII:Cレベルが全く相関しないので注意が必要です。


APTTクロスミキシング試験

ズ

(A)先天性血友病(凝固因子欠乏症)では、正常血漿の添加によりAPTT延長は補正され、下に凸のパターンを示します。一方、後天性血友病では、APTT延長は補正されにくく、上に凸もしくは直線的なパターンを示します。
(B)後天性血友病では、混和直後に下に凸のパターンであったものが、37℃2時間加温にて明らかな上に凸のパターンあるいは直線的なパターンになります。
 

患者血漿に正常血漿を一定の比率で混合してAPTTを測定することにより、凝固因子欠乏症とインヒビターとを鑑別する検査です。

図Aに示すように先天性血友病では、正常血漿の添加により延長したAPTTは短縮しますが、後天性血友病では短縮されません。

検査上の注意点として、FVIIIに対するインヒビターの反応は時間および温度依存性ですので、APTT測定は0時間と37℃2時間加温後の両方で実施することが重要です(図B)

Hay CR, et al: The diagnosis and treatment of factor VIII and IX inhibitors: a guideline from the United Kingdom Haemophilia Centre Doctors’ Organization. Br J Haematol 133:591-605, 2006.


また、APTT試薬の中にはFVIII:C低下に対して感度が低い試薬がありますので、混合試験にてインヒビターパターンを示さなくても後天性血友病は否定できません。


インヒビター力価の測定

診断の確定は、抗FVIIIインヒビターの検出です。

インヒビター力価の測定は、通常Bethesda法にて行います。すなわち、段階希釈した患者血漿と正常血漿を等量混合して37℃2時間加温後残存するFVIII:Cを測定します。残存FVIII:Cが25-75%に入る希釈倍率で得られたインヒビター力価に、その希釈倍率を乗じて最終インヒビター力価とします。

インヒビターはFVIII:Cの抑制パターンにより、先天性血友病に多く見られるタイプ(I)と後天性血友病に多く見られるタイプ(II)に分類されます。

タイプ(I)は検体希釈度と残存FVIII:Cが比例直線的に相関し、インヒビター存在時のFVIII:Cは通常1%未満です。


一方、タイプ(II)は希釈倍数と残存FVIII:Cは相関しません。

このような場合は、残存活性が50%を超えた希釈倍数をもってインヒビター力価を算出するのが望ましいですが、現時点では検査の標準化はなされていません。

したがって、インヒビター力価はFVIII:Cと同様に病勢の強さを反映するものではなく、むしろ治療反応性のモニタリングとして用いた方が良いです。

 

<鑑別診断>

・von Willebrand病(vWD):vWD はAPTT延長・FVIII:C低下を認めるため、von Willebrand因子リストセチンコファクター活性を測定することにより鑑別が必要です。

・Lupus anticoagulant (LA)ループスアンチコアグラント(LA)が陽性の場合、凝固検査試薬中のリン脂質を抑制するため、APTTが延長したりFVIIIなどの内因系凝固因子活性が見かけ上低値となることがあります。

クロスミキシング試験でもインヒビターパターンを示し、さらにはFVIIIインヒビターが偽陽性となることがあります。

Kazmi MA, et al: Acquired haemophilia A: errors in the diagnosis. Blood Coagul Fibrinolysis 9:623-628, 1998.

このような場合は、検体をさらに希釈するか、合成発色基質法やFVIII抗原を測定することで鑑別できます。

・他の内因系凝固因子活性が低下:抗FVIIIインヒビターが高力価の場合、測定で使用する欠乏血漿中のFVIIIを失活するため、見かけ上第IX因子などの他の内因系凝固因子活性も同時に低下することがあります。

ですから、複数の凝固因子インヒビターが存在すると誤った判断をせずに、凝固因子抗原を測定したり特異的抗凝固因子結合抗体をELISAで測定するなどして、鑑別する必要があります。

(続く)後天性血友病(3)治療、予後


<リンク>

血液凝固検査入門(図解シリーズ)
播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)
金沢大学血液内科・呼吸器内科HP
金沢大学血液内科・呼吸器内科ブログ
研修医・入局者募集

参考:血栓止血の臨床日本血栓止血学会HPへ)

投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:55| 出血性疾患