後天性血友病(3)治療、予後
後天性血友病(2)診断、鑑別診断より続く。
後天性血友病(3)
<治療>
田中一郎ほか:日本血栓止血学会後天性血友病A診療ガイドライン.血栓止血会誌22:295-322, 2011.
後天性血友病の治療の原則は、止血療法と免疫抑制療法です。
インヒビターを除去しない限り出血をきたす危険性があるため、診断後直ちにインヒビター消失を目的とした免疫抑制療法を開始します。
さらに、重度な出血症状がある場合に止血治療を開始します。
止血療法
止血治療の対象となるのは、生命の危険を及ぼすような重篤な臓器出血や、貧血の進行を認めるような皮下出血等の軟部組織への出血です。
このような出血症状を認めた場合は、速やかに止血治療を開始する必要があります。
バイパス止血製剤
本疾患の止血療法は、バイパス止血製剤が第一選択となります。
現在、本邦で使用できるバイパス止血製剤は遺伝子組換え活性型凝固第VII因子製剤(rFVIIa:ノボセブン)もしくは活性型プロトロンビン複合体製剤(APCC:ファイバ)です。
用法・用量は、通常rFVIIaでは90〜120 μg/kgを2-3時間毎に反復投与します。
Hay CR, et al: The treatment of bleeding in acquired haemophilia with recombinant factor VIIa: a multicentre study. Thromb Haemost 78: 1463-1467, 1997.
出血後可及的早期の投与がより有効です。
一方、APCCでは50〜100 U/kgを8-12時間毎1-3回/日投与します。
Sallah S: Treatment of acquitted haemophilia with factor eight inhibitor bypassing activity. Haemophilia 10:169-173, 2004.
一日最大投与量は200 U/kgで、トランサミンとの併用は禁忌です。
両製剤の止血効果は同等であり、比較試験はこれまでに行われていないため、あらかじめどちらの製剤の方が有効かを予測することは困難です。
rFVIIaおよびAPCCの副作用としては血栓塞栓症がありますが、発症頻度は低いと考えられています。
Summner MJ, et al: Treatment of acquired haemophilia with recombinant activated FVII: a critical appraisal. Haemophilia 13:451-461, 2007.
Ehrlich HJ, et al: Safety of factor VIII inhibitor bypass activity (FEIBA): 10-year complication of thrombotic adverse events. Haemophilia 8:83-90, 2002.
しかしながら、動脈硬化が進行した高齢者や肥満、高脂血症、虚血性心疾患などのリスクを有する症例では、血栓マーカーの定期的チェックを行うなど血栓症の発症に留意しながら使用すべきです。
第VIII因子製剤、DDAVP(デスモプレシン)
インヒビター力価が極めて低く、FVIII: Cが検出される場合には、FVIII製剤またはDDAVPによりFVIII:Cが上昇する可能性があります。
しかしながら、必ずFVIII:Cの注意深いモニタリングが必要です。
免疫抑制療法(インヒビター除去)
本邦のガイドラインでは、免疫学的治療の第一選択は副腎皮質ホルモン(PSL) 1 mg/kg/日の単独投与としています。
ただし、既にステロイドが使用されている症例では、cyclophosphamide(CPA) 50-100 mg/kg/日の併用も考慮します。また、高容量γグロブリン製剤の有効性に関するエビデンスはなく、推奨されていません。
免疫抑制療法の効果は、APTT、FVIII:C、インヒビター力価を測定して判定しますが、中でもインヒビター力価の低下の程度を最も重要視します。
治療開始後4〜6週間経過してもインヒビター力価の低下が認められない場合は、薬剤の追加や変更を考慮します。
追加・変更薬剤としては、従来はcyclosporin A(CyA)、azathioprine(AZP)などが選択されていましたが、近年は抗CD20抗体であるrituximabが注目されています。
Wiestner A, et al: Rituximab in the treatment of acquired factor VIII inhibitors. Blood 100:3426-3428, 2002.
現時点では、rituximabと他の免疫抑制剤との比較試験がないため、どちらが優れているかは明らかではありませんが、海外では第一選択薬の効果が不十分な場合の第二選択薬として位置付けており、AZPやCyAより推奨度が高いです。
Collins PW, et al: Consensus recommendations for the diagnosis and treatment of acquired hemophilia A. BMC Res Notes 3:161-168, 2010.
<予後>
本邦における2008年調査結果によりますと、後天性血友病A 40例中インヒビター消失は21例(52%)、インヒビター残存は9例(23%)でした。
田中一郎、ほか:わが国における後天性凝固因子インヒビターの実態に関する3年間の継続調査—予後因子に関する検討—.血栓止血会誌19:140-153, 2008.
インヒビター消失までの期間は0.5〜15か月(中央値2か月)であり、81%が半年以内に消失しました。
本症は一部で再燃をきたすことが知られており、免疫抑制療法中止後中央値7.5か月でインヒビターが再発しています。
そのため、治療終了後の半年間は月1回、半年から1年までは2か月に1回の間隔で、APTTとFVIII:Cをモニターすることが推奨されています。
嶋緑倫:後天性凝固異常症の病態と治療:後天性血友病を中心に.臨床血液51:211-218, 2010.
生命予後は決して良好ではなく、死因の多くは重篤な出血と免疫抑制療法に伴う重症感染症です。
したがって、免疫抑制剤投与中は感染症の予防対策を行い、免疫機能をチェックしながら早期発見に努める必要があります。
(続く)
<リンク>
播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)へ
金沢大学血液内科・呼吸器内科HPへ
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参考:血栓止血の臨床(日本血栓止血学会HPへ)
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:02| 出血性疾患