後天性抗第V因子インヒビター(1)概念・定義、疫学
後天性抗第V因子(FV)インヒビターを、シリーズで記事にさせていただきます。
後天性抗第V因子インヒビター(1)概念・定義、疫学
<概念・定義>
後天性抗第V因子(FV)インヒビターとは、FVに対する自己抗体が出現し、その結果FV活性(FV:C)の低下をきたし、後天的に出血症状を発症する疾患です。
症状の程度は、無症候性から致死的な出血まで様々です。
過去の症例報告のほとんどが、手術時に使用したフィブリン糊(ウシトロンビン画分を含む)が関連して発症したインヒビターです。
Knoble P, Lechner K: Acquired factor V inhibitors. Baillieres Clin Haematol 11:305-318, 1998.
ウシトロンビン画分中には少量のウシFVが混入しており、ヒトFVとの共通抗原に対して抗体産生を促すと考えられています。
<疫学>
後天性抗FVインヒビターの発生はまれですが、1955年にHörderが初めて報告して以来2001年までに120数例の報告があります。
その症例報告の約2/3で、ウシトロンビン暴露が成因となっています。
Streiff MB, Ness PM: Acquired factor V inhibitors: a needless iatrogenic complication of bovine thrombin exposure. Transfusion 42: 18-26, 2002.
一方、ウシトロンビン起因性を除いた抗FVインヒビターの症例報告約70数例をまとめた最近の2つの総説によりますと、年齢の中央値は69歳(3-91歳)あるいは71歳(3-95歳)と高齢者に多く、男女比は1.8-2.0:1と男性に多い結果でした。
Franchini M, Lippi G: Acquired factor V inhibitors: a systematic review. J Thromb Thrombolysis 314:449-457, 2011.
Ang AL, Kuperan P, Ng CH, et al: Acquired factor V inhibitor. A problem-based systematic review. Thromb Haemost 101:852-859, 2009.
日本血栓止血学会学術標準化委員会が実施した「わが国における後天性凝固因子インヒビターの実態に関する3年間の継続調査」結果(2008年)によりますと、インヒビター55例中抗FVインヒビターをもつ症例は1例で、56歳の男性でした。
田中一郎、天野景裕、瀧正志、ほか:わが国における後天性凝固因子インヒビターの実態に関する3年間の継続調査—予後因子に関する検討—.血栓止血会誌19:140-153, 2008.
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:29| 出血性疾患