金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2013年04月30日

後天性抗第V因子インヒビター(2)発生機序、タココンブ

後天性抗第V因子インヒビター(1)概念・定義、疫学より続く。

後天性抗第V因子インヒビター(2)発生機序


<発生機序


過去に報告された抗第V因子(FV)インヒビターのほとんどが、手術時の止血目的で用いるフィブリン糊の使用後に発生しています。

心臓手術患者の40〜66%、神経系手術患者の20%で、ウシトロンビン関連抗FVインヒビターが発生します。

Streiff MB, Ness PM: Acquired factor V inhibitors: a needless iatrogenic complication of bovine thrombin exposure. Transfusion 42: 18-26, 2002.


ウシトロンビンが誘因となる抗FVインヒビター保有患者の多くは、凝血学的検査異常のみで出血症状は認めず、抗体も一過性のことが多いです。

我が国におけるフィブリン糊は、2011年ウシ由来トロンビン画分(タココンブ)をヒト血漿由来トロンビン画分(タコシール)に変更しました。

また、海外では遺伝子組換えトロンビンの使用が増加しており、ウシFV混入が誘因となる抗FVインヒビター発生例は今後減少していくと考えられます。


ウシトロンビン暴露やFV欠損症患者で発生する抗FVインヒビター(免疫抗体)症例を除きますと、約半数で自己免疫性疾患や悪性腫瘍が基礎疾患として認められます。

Franchini M, Lippi G: Acquired factor V inhibitors: a systematic review. J Thromb Thrombolysis 314:449-457, 2011.

Ang AL, Kuperan P, Ng CH, et al: Acquired factor V inhibitor. A problem-based systematic review. Thromb Haemost 101:852-859, 2009.



また、発症前もしくは発症時に何らかの薬剤を使用していた症例は全体の約40%で、抗生剤(βラクタム系、アミノグリコシド、セファロスポリン、など)の投与が最も多い結果でした。

その他輸血、感染症、手術なども合併要因としてあげられます。

しかし実際には、細菌感染症に抗生剤を投与するなど、いくつかの要因が重なって存在することが多く、インヒビター発生要因を一つに特定することは困難です。

インヒビターの多くはpolyclonal IgGであり、FV軽鎖上のC2ドメインを認識するものが多いです。

C2ドメインはリン脂質との結合部位であり、インヒビターはリン脂質との結合を阻害する可能性が考えられています。

Ajzner E, Balogh I, Haramura G, et al: Anti-factor V auto-antibody in the plasma and platelets of a patient with repeated gastrointestinal bleeding. J Thromb Haemost 1:943-949, 2003.


(続く)後天性抗第V因子インヒビター(3)病態


<リンク>
血液凝固検査入門(図解シリーズ)
播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)
金沢大学血液内科・呼吸器内科HP
金沢大学血液内科・呼吸器内科ブログ
研修医・入局者募集

参考:血栓止血の臨床日本血栓止血学会HPへ)

投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:43| 出血性疾患