2013年06月03日
医師国家試験:意識障害、破砕赤血球
医師国家試験対策
45歳男性
意識障害のため搬入された。
5日前から38℃台の発熱が続いていた。昨日から傾眠状態となり、次第に増悪してきたため家族が救急車を要請した。下痢と血便とはなかったという。
意識レベルはJCSII-30。身長158cm、体温39.0℃、脈拍88/分、整。血圧110/70mmHg。呼吸数28/分。皮膚に出血斑を認める。
尿所見:蛋白2+、潜血2+。
血液所見:赤血球138万、Hb4.1g/dl、Ht16%、白血球8,000、網赤血球5%、血小板1.2万、PT97%(基準80〜120)、APTT32秒(基準対照32)。
血液生化学所見:総蛋白6.9g/dl、アルブミン3.3g/dl、尿素窒素24mg/dl、クレアチニン0.9mg/dl。心電図と胸部エックス線写真とに異常を認めない。
末梢血塗抹May-Giemsa染色標本:赤血球破砕像あり。
【ポイント】
意識障害、発熱のために緊急搬送されてきた45歳の男性です。
昨日から傾眠傾向であり、増悪しています。
ここまでだと脳炎などの感染症も鑑別に上がってくるでしょう。
下痢と血便がないことが確認されているので、消化器感染症は否定的です。
皮膚に出血斑があるため、何らかの出血性病態もあります。血圧は保たれているので、ショック状態にはなっていません。
【病態】
血液検査では著明な貧血(Hb 4.1g/dL)と血小板数低下(1.2万/μL)が際立った所見です。
網赤血球が5%と著増しており、溶血性貧血が疑われます。おそらく、溶血を反映してLDH上昇、ハプトグロビン低下(溶血の敏感なマーカー)、間接ビリルビン上昇といった所見も予想されます。ただし、クームス試験は陰性です。
凝固検査としてのPT、APTTは正常のため、出血性病態の原因は凝固異常ではなく、血小板数低下のみで良いでしょう。
本症例で最も意義深い所見は末梢血液像であり、破砕赤血球がみられます。
破砕赤血球がみられ、神経・精神症状(脳の症状)が見られているために、TTPと診断されます。
破砕赤血球がみられる疾患
(1)血栓性微小血管障害症(thrombotic microangiopathy:TMA):溶血性貧血、血小板数低下、臓器障害(微小循環障害による)をきたす。
1. 血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombovytopenic purpura:TTP):脳の症状。
2. 溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS):腎臓の症状。
3. HELLP症候群:hemolysis, elevated liver enzyme, low platelet。妊娠合併症、肝の症状。
4. 移植後TMA など。
(2)播種性血管内凝固症候群(DIC)の一部:一般的ではない。
(3)心血管障害:人工弁置換後・心臓弁膜症の一部
(4)全身転移を伴った癌の一部
【治療】
TTPでは、血漿交換が有効です。
TTPでは、ADAMTS13(VWF cleaving protease: VWF-CP、VWF切断酵素)に対する自己抗体が出現して、ADAMTS13活性が低下します。
そのため、血小板凝集能の高い超高分子量VWFマルチマーが切断されずに残存し、血小板凝集が進行します。
血漿交換を行うことで、この自己抗体と超高分子量VWFマルチマーを除去して、ADAMTS13を提供することができます。まさに、一石三鳥の治療です。
ただし血漿交換のみでは再燃することがあり、しばしば副腎皮質ステロイドによる免疫抑制療法が併用されます。
なおADAMTS13に対する自己抗体の出現やADAMTS13活性の低下は、TTPに特徴的な所見であり、他のTMAではみられません。
そのため、他のTMAでは血漿交換治療の効果は限定的です。
濃厚血小板PCは、血小板血栓の多発を誘発し病状が悪化するために禁忌です。
【参考】
意識障害・精神神経症状、破砕赤血球がポイントになっています。
精神神経症状はしばしば動揺する(悪化したり改善したりする)点も特徴です。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:22| 医師国家試験・専門医試験対策