金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2013年06月05日

医師国家試験:習慣性流産、深部静脈血栓症(1)

医師国家試験:習慣性流産、深部静脈血栓症(2)より続く。

 

医師国家試験対策

32歳の女性

一昨日からの下肢の腫脹を主訴に来院した。3回流産歴がある。

左下肢に熱感を伴う有痛性の腫脹を認める。左足を背屈すると腓腹部に疼痛が生じる。

血液所見:赤血球370万、Hb11.0g/dl、白血球3,200、血小板8万、プロトロンビン時間<PT>12秒(基準10〜14)、APTT62秒(基準対照32.2)。抗核抗体160倍(基準20以下)。

 

【ポイント】

一昨日から左下肢の有痛性の腫脹がみられている32歳の女性です。3回の流産歴もある点が注目され、習慣性流産です。

下肢が腫れている場合には、まず両側性なのか片側性なのかを意識する必要があります。

両側性の場合は浮腫の可能性が高いですが、片側性の場合、特に急激に症状がみられた場合には深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)を疑います。

下肢のDVTは左側に多いことが有名です(右側には無いと言う訳ではありません)。左総腸骨静脈が、右総腸骨動脈によって圧迫されるために健常人でも左下肢静脈の方が血流が悪いためです。

足を背屈すると腓腹部(ひふくぶ;ふくらはぎ)の疼痛がみられることをHomans徴候と言いますが、下肢静脈エコーが普及することによって無症候性のDVTも多数診断されるようになったために、以前ほど重用視していません。

急性DVTは、肺塞栓を併発すると致命症になる場合があるために、早急な診断治療が必要です。

さらに重要なことはなぜ若い女性が、DVTを発症したかです。

内科領域で習慣性流産と言えば、真っ先に抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome:APS)を想起する必要があります。

胎盤に血栓ができるためです。

なお、妊娠する機会は健常人と同じであり不妊症ではありません。妊娠早期の流産もありますが、安定期以降であっても流産・死産があり得ます。

(続く)



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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:18| 医師国家試験・専門医試験対策