抗リン脂質抗体症候群(APS)と習慣性流産(不育症)
平成25年度血液内科学系統講義試験<細胞移植学(血液内科)>
以下の文中で( )に入るものはどれか。1つ選べ。
患者は27歳女性。
【既往歴】22歳;妊娠23週、死産。23歳;妊娠26週、子宮内胎児死亡(胎盤病理にて胎盤梗塞あり)。右下肢深部静脈血栓症。
【現病歴】2回の妊娠中期以降死産あり。深部静脈血栓症に対し非妊娠時はワルファリン内服をおこなっていた。第2回妊娠時より抗リン脂質抗体陽性であることが判明しており、第3回妊娠時は低用量アスピリンと( )の併用療法を行い、妊娠34週に帝王切開にて出産している(児体重2,460g)。今回第4回目の妊娠が判明し当科紹介受診となる。
【血液検査所見】WBC 3490/μL、Hb 9.9g/dL、血小板数 24.3万/μL、PT延長(ワルファリン内服中)、APTT 42.3秒、抗カルジオリピン抗体:著増、ループスアンチコアグラント陽性
a. ワルファリン
b. 未分画へパリン
c. トラネキサム酸
d. 副腎皮質ステロイド
e. 組織プラスミノゲンアクチベーター
(解説)
この問題は、新しい傾向の問題かも知れません。臨床問題に関しましては、血栓止血領域は 今後はこのようなタイプの問題になる予定です。問題を解きながら、試験時間中に疾患をしみじみ理解していただければと思っています。試験を受けているにもかかわらず、勉強できる訳です。
抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラントともに陽性ですから、病名は、瞬時に分かるのではないかと思います。抗リン脂質抗体症候群(APS)の典型例です。この症例のように、女性の場合は習慣性流産(不育症)は特徴の一つです。
静脈血栓では深部静脈血栓症や肺塞栓がみられやすいです。動脈血栓症では、脳梗塞がみられやすいです。
血小板数の低値や、APTTの延長がみられる症例もありますが、本症例のように明らかではないことも多々あります。換言しますと、血小板数やAPTTでは、抗リン脂質抗体症候群(APS)をスクリーニングすることはできません。
・ワルファリンは、催奇形性の副作用の問題があり、妊婦では使用できません。
・未分画へパリンは、抗リン脂質抗体症候群(APS)の習慣性流産対策に使用されます。使用する場合には、アスピリンに加えることが多いです。
・トラネキサム酸(トランサミン)は、血栓症を誘発することがあります。血栓傾向にある症例に対しては禁忌です。
・副腎皮質ステロイドを用いても、抗リン脂質抗体は消えません。抗リン脂質抗体は、ステロイドで消えない抗体なのです。
・組織プラスミノゲンアクチベーター(t-PA)は、線溶療法の治療薬です。点滴製剤です。心筋梗塞や脳梗塞の超急性期に使用することがあります。出血(脳出血を含む)の副作用には注意が必要です。
・
(解答)b
(追伸)この臨床問題は、「臨床に直結する血栓止血学」(中外医学社、平成25年秋に発刊予定)からの症例を使用しました。この本では、全ての疾患で、症例提示、ピットホール、お役立ち情報、ここがコンサルトされやすい!、などの項目を設けていて、とても楽しく血栓止血学を勉強していただけます。
<リンク>
播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)へ
金沢大学血液内科・呼吸器内科HPへ
金沢大学血液内科・呼吸器内科ブログへ
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参考:血栓止血の臨床(日本血栓止血学会HPへ)
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:09| 医師国家試験・専門医試験対策