大動脈瘤に合併した線溶亢進型DIC
平成25年度血液内科学系統講義試験<細胞移植学(血液内科)>
72歳・男性患者の臨床経過および検査所見を以下に示す。
文章中の下線を引いた箇所のうち、本症例の「経過に合わない検査値」または「処置として適切でないもの」はどれか。1つ選べ。
【病歴】
63歳:腎機能障害、胸・腹部大動脈瘤を指摘。
71歳:腹部大動脈瘤に対し人工血管置換術施行。胸部大動脈瘤は経過観察の方針。
今回特に誘因なく左大腿部の疼痛に加え、翌日にはふらつき、息切れを自覚したため受診、貧血の進行と左大腿部の皮下血腫を認め入院。
【入院時血液検査所見】
Hb 7.0g/dL、血小板数 9.1万/μL、PT 13.1秒、APTT 29.0秒、フィブリノゲン 68mg/dL、アンチトロンビン(AT) 114%、プラスミノゲン 79%、α2PI 87%、TAT 82.5ng/mL、PIC 18.4μg/mL、FDP 172.7μg/mL、Dダイマー 79.9μg/mL、Cr 2.6mg/dL
【入院時CT所見】左臀筋深部に血腫形成。
【経過】
入院後に貧血の進行を認め、赤血球輸血を行なった。
同時にメシル酸ナファモスタット持続点滴を開始したところ出血症状が改善したが、高K血症を認めたため本薬を中止し、ヘパリンの持続点滴およびトラネキサム酸(TA)の内服を開始。
その後、ヘパリン持続点滴をヘパラン硫酸週2回の静注に切り替え、病態が安定していることを確認した上で退院となった。
a. α2PI 87%
b. Dダイマー 79.9μg/mL
c. 赤血球輸血
d. メシル酸ナファモスタット持続点滴
e. 高K血症
(解説)
本症例では、大動脈瘤に線溶亢進型DICを合併しています。筋肉内出血に伴い、貧血も高度です。
線溶亢進型DICでは、本症例のようにフィブリノゲンは著減します。TATは全てのDICで上昇しますが、線溶亢進型DICではPICの上昇が高度です。FDPは著増しますが、Dダイマーの上昇はFDPほどではなく乖離現象がみられます。
線溶亢進型DICでは、過剰なプラスミンの形成がみられるために、α2PIは消費性に著減します(プラスミンとα2PIが1対1結合するかたちでα2PIは消費されて低下します)。アンチトロンビンが低下しないのも特徴です。
・α2PI 87%は間違っています。著減しているはずです。
・Dダイマー 79.9μg/mLは上昇していますが、FDPとの間に乖離現象がみられ、線溶亢進型DICの特徴になっています。
・貧血が高度ですから、赤血球輸血を行っても問題ないでしょう。
・メシル酸ナファモスタット(フサンなど)は、線溶亢進型DICに相性の良いお薬です。
・メシル酸ナファモスタットの副作用としては、高K血症は有名です。
(解答)a
(追伸)
この臨床問題は、「臨床に直結する血栓止血学」(中外医学社、平成25年秋に発刊予定)からの症例を使用しました。この本では、全ての疾患で、症例提示、ピットホール、お役立ち情報、ここがコンサルトされやすい!、などの項目を設けていて、とても楽しく血栓止血学を勉強していただけます。
<リンク>
播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)へ
金沢大学血液内科・呼吸器内科HPへ
金沢大学血液内科・呼吸器内科ブログへ
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参考:血栓止血の臨床(日本血栓止血学会HPへ)
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:51| 医師国家試験・専門医試験対策