抗リン脂質抗体症候群(APS)の妊娠管理(3)診断
抗リン脂質抗体症候群(APS)の妊娠管理(2)流産の機序より続く。
抗リン脂質抗体症候群(APS)の妊娠管理(3)APS関連不育症の診断
<抗リン脂質抗体症候群の診断基準案>(2006年改訂)
(臨床所見が1つ以上、検査所見が1つ以上存在した場合、抗リン脂質抗体症候群と診断する)
・動静脈血栓症
・妊娠合併症
a. 1回以上の胎児奇形のない妊娠10週以降の子宮内胎児死亡
b. 1回以上の新生児形態異常のない妊娠34週以前の妊娠高血圧腎症、子癇または胎盤機能不全に関連した早産
c. 3回以上の連続する原因不明の妊娠10週未満の流産(本人の解剖学的、内分泌学的原因、夫婦の染色体異常を除く)
検査所見(12週間以上の間隔で2回以上陽性)
a. ループスアンチコアグラント (LA)陽性:国際血栓止血学会のガイドラインに基づいた方法で測定
b. IgG型またはIgM型の抗カルジオリピン抗体(aCL)陽性:標準化されたELISA法において、中等度以上の力価(>40GPL or MPL,または>99パーセンタイル)
c. IgG型またはIgM型の抗β2-GPI抗体陽性:標準化されたELISA法において、中等度以上の力価(>99パーセンタイル)
<抗リン脂質抗体関連不育症の診断>
2006年に改訂されたAPS診断基準を上記に示します。
Miyakis S, Lockshin MD, Atsumi T, et al: International consensus statement on an update of the classification criteria for definite antiphospholipid syndrome (APS). J Thromb Haemost 2006; 4: 295-306.
この診断基準によれば、
(a) 1回以上の胎児奇形のない妊娠10週以降の子宮内胎児死亡
(b) 1回以上の新生児形態異常のない妊娠34週以前の妊娠高血圧腎症、子癇または胎盤機能不全に関連した早産
(c) 3回以上の連続する原因不明の妊娠10週未満の流産(本人の解剖学的、内分泌学的原因、夫婦の染色体異常を除く)
上記(a)~(c)の妊娠合併症に加え、aPLとして、抗カルジオリピン抗体(aCL)、抗β2グリコプロテインI抗体(aβ2GPI、本邦ではβ2GPI依存性抗カルジオリピン抗体(aCL-β2GPI))あるいはループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant; LA)が12週以上の間隔をあけて2回以上陽性になることが診断に必須となっています。
しかし、この診断基準に準ずれば、たとえaPLが陽性でも初期流産2回の既往では抗リン脂質抗体症候群(Antiphospholipid syndrome;APS)とは診断されないことになります。
初期の習慣性流産に対してaPLの関与を否定する考え方もありますが、産科領域では2回の流産歴で不育症に対する精査を希望する患者も多く、このような症例でaPLが陽性の場合、診断基準を満たさないため治療介入を行わないとする選択肢は実際の臨床現場では受け入れ難いのではないかと推測されます。
また、検査所見においても、aCLあるいはaCL-β2GPIが再現性をもって、かつ中等度力価以上陽性であることが必要ですが、低力価aPL陽性の不育症症例や再現性の確認を待たず妊娠してしまう症例への対応については判断が難しいところです。
産科、特に不育症領域におけるAPS診療の特殊性として、上記aCL、aCL-β2GPI、LA検査以外にキニノーゲン依存性抗フォスファチジルエタノラミン抗体(kininogen-dependent antiphophatidylethanolamine antibody; aPE)やIgM型aCLなどが測定されている点があげられます。
現在保険診療範囲内で測定できるaPLは、IgG型aCLおよびaCL-β2GPI、LA(希釈ラッセル蛇毒時間、リン脂質中和法)のみですから、aPEは自費診療あるいは研究費の形で測定されることになりますが、IgM型aCLを除いてこれらの検査の有用性については未だ確立していません。
今後、よりエビデンスレベルの高い臨床試験による検証が待たれます。
(続く)抗リン脂質抗体症候群(APS)の妊娠管理(4)血栓症治療へ
<リンク>
播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)へ
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参考:血栓止血の臨床(日本血栓止血学会HPへ)
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:53| 血栓性疾患