抗リン脂質抗体症候群(APS)の妊娠管理(4)血栓症治療
抗リン脂質抗体症候群(APS)の妊娠管理(3)診断より続く。
抗リン脂質抗体症候群(APS)の妊娠管理(4)血栓症治療
<血栓症の既往のある妊婦>
すでに動静脈血栓症の既往を有する抗リン脂質抗体症候群(APS)合併妊婦は、妊娠によってさらに血栓傾向が高まるため、より慎重な抗血栓療法が必要です。
妊娠以前に合併した血栓症に対してはすでに抗血栓療法が行われていますが、静脈血栓症に対する最も標準的な抗凝固薬であるワルファリンは催奇形性のため妊娠中に投与することはできません。
妊娠5週までに、ワルファリンは未分画ヘパリン(UFH)あるいは低分子ヘパリン(LMWH)へ切り替える必要があります。
深部静脈血栓症合併症例では弾性ストッキングによる理学療法も有用です。
産科合併症の既往がある場合はアスピリンが併用されます。
実際、治療の際に問題となるのがヘパリンの投与量です。
妊娠中は、APTTは短縮するため、いわゆる予防投与量(UFH;ヘパリンカルシウム 5000単位12時間ごと皮下注)ではAPTTは延長しないことが多いです。
欧米ではLMWH(APTTは延長しません)の皮下注製剤がもっぱら使用されていますが、本邦で使用できるLMWHのうち、エノキサパリン(クレキサン;皮下注製剤)は術後の静脈血栓予防に使用が限定されており、ダルテパリン(フラグミン)は妊婦での使用は認められていません。
血栓の既往に対してすでに十分な抗血栓療法がなされ、妊娠前より病変部が良好にコントロールされている場合には予防投与量UFHによる管理も可能と考えられますが、ハイリスク患者では不十分である可能性が高いです。
また、妊娠中新たに血栓症を起こした症例には、1日量のUFH投与量をさらに増量しAPTTを基礎値の1.5〜2倍に延長させるような用量調節が必要となります。
産後はヘパリン投与からワルファリン内服への切り替えを行います。
本邦ではワルファリンの添付文書上、授乳をさけるよう記載がありますが、欧米ではワルファリンは授乳婦でも内服可能な薬剤に分類されています。
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<リンク>
播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)へ
金沢大学血液内科・呼吸器内科HPへ
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参考:血栓止血の臨床(日本血栓止血学会HPへ)
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:25| 血栓性疾患