抗リン脂質抗体症候群(APS)の妊娠管理(5)不育症治療
抗リン脂質抗体症候群(APS)の妊娠管理(4)血栓症治療より続く。
抗リン脂質抗体症候群(APS)の妊娠管理(5)不育症治療
<不育症に対する治療>
流死産予防としては、低用量アスピリン・ヘパリン療法が標準的治療として確立されています。
当院では、抗リン脂質抗体症候群(APS)の診断がなされた場合、挙児希望があった時点よりアスピリン(バイアスピリン100mg/日)の内服を開始し、子宮内に胎嚢が確認された時点で予防投与量未分画ヘパリン(UFH)(5000単位12時間ごと皮下注)の自己注射を開始します。
アスピリンは妊娠36週まで内服し、UFH皮下注は分娩前日までの投与を原則としていますが、よりリスクが高い症例では分娩前よりUFH持続点滴に切り替え、分娩4〜6時間前に中止する方法をとっています。
低用量アスピリン・ヘパリン療法以外にも、アスピリン単独投与の有用性の報告や、初期流産の既往のみの症例では胎盤形成期である妊娠16週前後までに限ったヘパリン投与を行うプロトコールの報告もみられますが、質の高い臨床試験での検証にはいたっていません。
しかし、現実には、厳密に診断基準を満たさない症例等でアスピリン単独療法が行われることも多いのではないかと推測されます。
アスピリンは胎盤を通過し、その血小板機能抑制作用は約1週間持続します。
胎児における動脈管早期閉鎖などの先天異常の可能性については欧米の報告で否定されていますが、内服時期によっては分娩時の出血量の増加につながるとの報告もあります。
本邦では、添付文書上、「出産予定日12週以内の妊婦には投与しないこと」と記載されており、アスピリン投与についてはその投与期間についても十分な説明と同意が必要です。
2012年1月よりUFH(ヘパリンカルシウムモチダ)の在宅自己注射が保険適用となり、APS合併妊婦を取り巻く医療環境は医療費および保障の面でも大きく前進しました。
とはいえ、長期にわたるヘパリン皮下投与は精神的にも手技的にも患者負担の大きい治療であることに変わりはありません。
ヘパリン治療の際の留意点については後述しますが、医師による指導のみならず、産科医療に携わるすべてのスタッフの理解と協力が必要と考えられます。
(続く)抗リン脂質抗体症候群(APS)の妊娠管理(6)ヘパリン注意点へ
<リンク>
播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)へ
金沢大学血液内科・呼吸器内科HPへ
金沢大学血液内科・呼吸器内科ブログへ
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参考:血栓止血の臨床(日本血栓止血学会HPへ)
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:04| 血栓性疾患