新しいDIC診断基準へ(1)現行基準の問題点
新しいDIC診断基準へ(1)現行基準の問題点
我が国でよく知られているDICの診断基準としては、旧厚生省DIC診断基準(旧厚生省基準)、国際血栓止血学会(ISTH)DIC診断基準(ISTH基準)、日本救急医学会急性期DIC診断基準(急性期基準)があります。
ISTH基準は2001年に公開ですので、旧厚生省基準(原型は1980年)から約20年も遅れています。
しかも、旧厚生省基準を模倣したものでした。
日本のDIC臨床/研究は世界に先駆けていると言えるでしょう。
ISTH基準は日本の旧厚生省基準を模倣して作成されたものですが、感度が悪いと指摘されている旧厚生省基準よりもさらに感度が悪いことが指摘されています。
DIC患者さんの救命という観点からは最も使用しにくい基準と考えられます。
日本の臨床現場ではほとんど使用されていません。
急性期基準は、救急領域を中心に浸透してきています。
実際、救急領域で遭遇しやすい敗血症に合併したDICに対しては診断能力が高く、救急領域の臨床現場で威力を発揮する基準と言えます。
しかし、造血障害、すなわち骨髄抑制をきたした症例、骨髄不全、末梢循環における血小板破壊や凝集など、DIC以外にも血小板数低下の原因が存在する場合には使用することができません。
<血小板数低下をきたす疾患・病態>
1. 血小板破壊や凝集の亢進
・ 血栓性微小血管障害症(TMA):血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、溶血性尿毒症症候群(HUS)、HELLP症候群、造血幹細胞移植後TMA
・ ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)
・ 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、全身性エリテマトーデス(SLE)、抗リン脂質抗体症候群(APS)
・ 体外循環 など
2. 骨髄抑制/骨髄不全をきたす病態
・ 造血器悪性腫瘍(急性白血病、慢性骨髄性白血病の急性転化、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫の骨髄浸潤など)
・ 血球貪食症候群
・ 固形癌(骨髄浸潤あり)
・ 骨髄抑制を伴う化学療法あるいは放射線療法中
・ 薬物に伴う骨髄抑制
・ 一部のウイルス感染症
・ 造血器悪性腫瘍以外の一部の血液疾患(再生不良性貧血、発作性夜間血色素尿症、巨赤芽球性貧血など)
3. 肝不全、肝硬変、脾機能亢進症
4. 敗血症
5. Bernard-Soulier症候群、MYH9異常症(May-Hegglin異常症など)、Wiskott-Aldrich症候群
6. 希釈
・ 大量出血
・ 大量輸血、大量輸液
・ 妊娠性血小板減少症 など
7. 偽性血小板減少症
旧厚生省基準はすべての基礎疾患に適用することができて、日本の臨床現場で長年にわたり使用されてきました。
また多くのDIC治療薬の臨床試験もこの基準で行われてきたことからも、最も評価の定まった基準です。
しかし、旧厚生省基準にも数々の問題点が指摘されてきました。
特に感染症に感度が悪い、分子マーカーが採用されていない、誤診されることがあるなどが大きな問題点として指摘されています。
このような背景のもと、旧厚生省基準の改訂が急務と指摘されてきました。
より良いDIC診断基準の登場は、日本におけるDICの臨床と研究を向上させる上で大きな意義を有すると考えられます。
<リンク>「臨床に直結する血栓止血学」
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:08| DIC