後天性凝固因子インヒビター:第V因子インヒビター
論文紹介です。
「後天性凝固因子インヒビター」
著者名:野上恵嗣
雑誌名:臨床血液 56: 160-168, 2015.
<論文の要旨>
後天性凝固因子インヒビターは、凝固因子に対する自己抗体(インヒビター)の出現により当該因子が低下〜消失するため出血症状を呈する後天性自己免疫疾患です。
遺伝子異常に基づく先天性凝固因子欠乏症と異なる疾患です。
近年、報告例は増加しており、大部分は抗第VIII因子自己抗体です。
高齢者に多いことから免疫制御機序の破綻が原因と推測されますが、発症機序や病態は未だ不明な点が多いです。
本論文では、第VIII因子インヒビターと第V因子インヒビターの発症機序と病態について解説されています。
インヒビターの特性解析は、凝固因子の活性化機序や凝固反応過程のさらなる解析につながります。
今後、新たな凝血学的検査法の開発に伴い、インヒビター解析を通して、本領域でのさらに多くの新知見が得られるでしょう。
さらに凝固抑制機序の詳細な解明が、後天性凝固因子障害症での止血治療戦略に結びつくことが多いに期待されます。
後天性凝固第V因子インヒビターの発症は極めて稀であり、1955年に初めて報告されて以来、文献的報告例は約100例程度に散見されます。
しかし、本邦調査でも後天性第VIII因子インヒビターの1/50の発生率であることから、最近は少しずつ増加しているとされます。
悪性腫瘍等の基礎疾患を伴うこともありますが、多くは基礎疾患のない高齢者でも手術後のインヒビターが検出されています。
これは、手術時に使用されたフィブリン糊(ウシトロンビン由来)に極少量混入している第V因子が、ヒト第V因子との共通抗原に対し抗体産生していると推測されます。
臨床症状として多くは出血症状を呈しますが、比較的軽度とも言われています。
時に無症状や血栓症状を認めることがあり、後天性第VIII因子インヒビターと比べて症状多様性を示すのが特徴です。
本インヒビターは2〜3ヶ月で消失することが多いですが、時に長期にわたり持続することもあります。
第V因子の活性低下と臨床症状との差異を認めるため、一般に第V因子活性値と症状とも相関しないことも留意すべきです。
多様な症状を示す機序として、第VIII因子と異なり、血小板には第V因子が多量に存在しており、血小板由来第V因子とインヒビターとの反応性の差によるとの報告があります。
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参考:血栓止血の臨床(日本血栓止血学会HPへ)
投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:46| 出血性疾患