トロンボモジュリン製剤(リコモジュリン):DIC治療薬
トロンボモジュリン製剤(リコモジュリン)
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DIC病型分類に関する欧文論文:Classifying types of disseminated intravascular coagulation: clinical and animal models. Journal of Intensive Care 2014, 2: 20.
【はじめに】
トロンボモジュリンは、トロンビンと結合して抗トロンビン作用を発揮するのみでなく、トロンビン-トロンボモジュリン複合体は凝固阻止因子であるプロテインCを飛躍的に活性化させることでも、抗凝固活性を発揮する。
2008年5月より、遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤(商品名:リコモジュリン)が日本において使用可能となり、播種性血管内凝固症候群(DIC)の治療薬として保険収載された。全く新しい作用機序を有したトロンボモジュリン製剤の登場により、DIC治療は大きな発展をとげたことになる。
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【トロンボモジュリンの構造とリコモジュリン】
ヒトトロンボモジュリンは、557個のアミノ酸からなり(分子量105kDa)、N末端は細胞膜の外側に位置し、C末端は細胞内に位置する。
トロンボモジュリンはN末端から順番に、レクチン様ドメイン、EGF様ドメイン、セリン/スレオニンリッチドメイン、膜貫通ドメイン、細胞内ドメインの5領域から構成されている。この中で、EGF様ドメインでは、6個の上皮成長因子(EGF)構造が繰り返されている。
トロンボモジュリンのレクチン様ドメインには抗炎症効果があることが近年明らかになっている(文献)。以前より指摘されてきた活性型プロテインの抗炎症作用とともに、トロンボモジュリンの抗炎症作用に寄与している。
リコモジュリン(rTM)は、膜貫通ドメイン、細胞内ドメインを除くドメインからなっており、分子量は約64kDaである。rTMは、生理的なトロンボモジュリンと同様にトロンビンと結合することでトロンビンの向凝固活性や血小板活性化作用を抑制するとともに、プロテインCを活性化することによっても抗凝固活性を発揮する。
rTMは低濃度ではプロテインCを活性化することによる抗凝固活性が主体になるのに対して、高濃度ではトロンビンとの直接結合が主体となって抗凝固活性を発揮する。日本においてDICに対して使用されるrTM濃度は、前者の抗凝固活性を期待した用量設定となっている。
このことは、rTMはトロンビンが血中に存在する場合には抗凝固活性を発揮するが、血中トロンビン濃度が低下すると抗凝固活性を発揮しないことを意味している。rTMは出血の副作用が少ない薬物であるが(文献)、トロンビンが存在しない状態では抗凝固活性を発揮しないことと密接な関係があるのかも知れない。
rTMの血中半減期は約20時間と長いため、ヘパリンのような24時間投与は必要とせず、1日1回の投与(380U/kg、約30分で点滴静注)で充分な抗凝固活性を期待できる。
【DICに対するrTM】
造血器悪性腫瘍および重症感染症を基礎疾患としたDIC(n=234)に対して、rTMまたは低用量未分画ヘパリン(8U/kg/時間)6日間が投与される二重盲見無作為臨床試験が行われている。その結果、rTM投与群でのDIC離脱率が66.1%であったのに対して、ヘパリン投与群でのDIC離脱率は49.9%に留まっていた。また、rTM投与群では出血症状の改善が有意に高率であった(p=0.0271)。出血と関連した有害事象は、rTM投与群では43.1%だったのに対して、ヘパリン投与群では56.5%に達している(文献)。
このように、DICに対してrTMを投与した場合に、DIC離脱率そして出血の軽減の観点から優れた効果を発揮するものと考えられる。
従来の日本で行われてきたDIC臨床試験は、多岐にわたる基礎疾患の症例が区別されることなく登録され検討されてきたのが実状である。DICは基礎疾患によって病態が大きく異なっていることが明らかになっており、現在の医学水準で考えると多種多様のDIC症例を登録して解析した過去の臨床試験は問題があったのではないかと思われる。この点、rTMの臨床試験は、基礎疾患を造血器悪性腫瘍および重症感染症に限定しており、今までに日本で行われてきたDIC臨床試験とは比較にならない位に質の高い臨床試験となっている。
従来日本で行われてきたDIC臨床試験としては、低分子ヘパリン、ダナパロイドナトリウム、活性型プロテインCなどが知られているが、低用量未分画ヘパリンと比較して非劣性を検証しているに留まっている。この点からも、低用量未分画ヘパリンと比較して優越性を証明しえたrTMの臨床試験の意義は大きいものと考えられる。
なお、rTMは抗凝固活性のみならず抗炎症効果を発揮するため(rTMそのものによる抗炎症効果と活性化プロテインCによる抗炎症効果)、重症感染症に合併したDICに対する予後改善効果も期待されていた。推計学的には有意差はないものの、Day28における死亡率はヘパリン投与群と比較してrTM投与群では6.6%低下していた。重症敗血症を対照としたPROWESS試験においても、遺伝子組換え活性型プロテインCの死亡率低下効果は6.1%であったことを考えれば、rTMでの6.6%低下という数字は妥当なところではないかと考えられる。症例数が大きくなれば有意差となる可能性が高い。
【rTMに今後期待すること】
rTMの特徴は、
1)抗凝固作用と抗炎症作用を合わせもつこと
2)トロンビンの存在下で初めて有効に抗凝固活性を発揮するため出血の副作用が少ないこと
3)半減期が約20時間と長いこと
などが挙げられる。
DICの合併の有無とは関係なく、敗血症その他の炎症性疾患に対する効果を是非とも検証したいところである。
DICとくに重症感染症に合併したDICにおいては、血管内皮トロンボモジュリンの発現が低下しているが、加えてアンチトロンビン活性が低下している。DICに対して、rTMとアンチトロンビン濃縮製剤の併用投与が行える医療環境になって欲しいところである。
抗リン脂質抗体症候群の不育症の治療は、現在ヘパリンの皮下注(1日2〜3回、10ヶ月間)が行われている。この10ヶ月間の治療は患者によっては負担になることも少なくない。半減期の長いrTMの皮下注投与(点滴静注でなく)であればさらに半減期は長くなり、患者の負担が軽減するのではないかと期待される。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:03| DIC | コメント(0)