アミロイドーシスと出血(2)出血傾向の機序
<アミロイドーシスと出血>(2)
アミロイドーシスの出血傾向機序
ALアミロイドーシスでは、自然出血あるいは周術期の止血異常が約1/3(15〜41%)の患者で認められます。
主に、紫斑や点状出血、生検時の出血、さらには脳出血、消化管出血をきたします。
出血傾向をきたす機序としては、以下が考えられています。
1)凝固第X因子(FX)の低下(後天性FX欠損症)、まれにプロトロンビン、第V因子、第VII因子、第IX因子の低下、
2)線溶活性化
3)後天性von Willebrand症候群(AVWS)
4)フィブリン重合に対するインヒビターの出現
5)血小板機能異常による血小板凝集能の低下
6)消化管吸収不良性ビタミンK(VK)不足に伴うVK依存性凝固因子の低下
7)肝不全に伴う肝合成凝固因子の低下
8)アミロイド蛋白の沈着による血管の脆弱性
多数の要因が関与していると考えられていますが、それぞれについての詳細は不明な点が多いです。
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1)後天性FX欠損症は、ALアミロイドーシスの8.7%〜14%で認められます。その発症機序は、FXがアミロイド蛋白への親和性が高いためアミロイド沈着部位に吸着されてしまい、その結果循環血漿中から速やかにクリアランスされる、と考えられています。
アフィニティークラマトグラフィーを用いた解析によると、FXはしばしば脾臓のアミロイド繊維に結合しており、脾摘が出血傾向の改善に有効であったとの報告があります。
2)線溶活性化は、形質細胞におけるウロキナーゼ(u-PA)産生過剰、α2プラスミンインヒビター活性の低下、などが関与すると報告されており、プラスミノゲン活性低下、プラスミン・α2プラスミンインヒビター(PIC)高値、FDPの増加が検査所見として認められます。
3)AVWS発症機序としては、アミロイド繊維または形質細胞表面に選択的に高分子von Willebrand因子(VWF)マルチマーが吸着されるか、あるいは分解される可能性が考えられています。
VWFマルチマー解析では高分子VWFが欠落しており、リストセチンコファクター活性(VWF:RCo)が低下します。
5)〜8)一方、アミロイド蛋白は、腎臓、消化管、肝臓、血管など、様々な臓器に沈着し障害をきたします。
さらに、凝血学的異常所見としては、凝固活性化による血中トロンビン産生の増加を示すトロンビン・アンチトロンビン複合体(TAT)が高値を示す場合が、しばしばあります。
また、血中フィブリノゲン値は、骨髄腫に伴うサイトカイン誘導により急性反応性蛋白として増加する症例が約半数あり、一方で肝不全による産生障害、凝固活性化による消費、線溶活性化による分解により、低下をきたす場合もあります。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 01:13| 出血性疾患