金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2009年1月31日

晩期効果:造血幹細胞移植前処置としてのATG(4)

晩期効果を有するATG

ATGの血中半減期は2週間程度です。

しかし、T細胞抑制効果は数年以上持続する可能性が示唆されています。 

 これは、何らかの機序でATGが胸腺機能に影響して起こるものと考えられています。


Bacigalupoらは、非血縁者間骨髄移植患者109例を対象に、移植前処置にATGを用いるか用いないかでランダム化試験を実施して、移植後3年の時点で生存率に差がみられなかったと報告しています。
しかし、その後さらに3年間観察を続けたところ、前処置にATGを用いた群と用いない群では、広汎性慢性GVHDの発症率が15% vs. 41% (P=0.01)、Karnofsky score 90%以上の患者割合が89% vs. 57% (P=0.03)と差が認められました。


 特に、慢性肺機能障害の割合が19% vs. 51%(P=0.005)と、大きな差が認められたのは印象的です。


 6年生存率は44% vs. 31%(P=0.8)と有意差はありませんでしたが、1年以上生存した患者に限ると85% vs. 58%(P=0.09)とATG群に良好な傾向がみられました。

 したがって、非血液腫瘍例や、移植後早期再発の可能性が低く移植関連死亡が懸念される症例は、ATGのよい適応と思われます。



(続く)

 

【シリーズ造血幹細胞移植前処置としてのATG

1)背景
2)作用機序
3)GVHD予防 
4)晩期効果 
5)急性GVHDに対するpre-emptive ATG療法 
6)臍帯血移植&GVHD

 

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:05 | 血液疾患(汎血球減少、移植他) | コメント(0) | トラックバック(0)

GVHD予防:造血幹細胞移植前処置としてのATG(3)


ATGによるGVHD予防】

GVHD予防効果を抗ヒトT 細胞グロブリン(ATG)の有無・使用方法で比較検討した報告が多数あります。

初期の報告では、GVHD予防・移植関連死亡(TRM)は低下したものの、再発率が高まり相殺されたものが多いようです。

Russellらは、抗胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン(商品名:サイモグロブリン TG)投与量を従来の7.5-15 mg/kgから4.5 mg/kgに減らしました。
これにより、GVHD予防効果を保持したまま、再発率と致死的感染症発症増加を抑え、生存率が改善することを示しました。
さらに、ATGを用いれば、非血縁者間移植でも血縁者間移植と同等の治療成績が期待できることも示されました。


さらに、Remberger らは、非血縁者間移植患者を対象に、TGの使用量を4・6・8・10 mg/kgの4段階にわけて比較検討しました。
TG 4 mg/kgでは急性GVHD予防効果に乏しく、また10 mg/kgの場合はGVHD予防効果はTRMと再発率増加で相殺されました。
生存率が最も高かったのは、TG 6または8 mg/kgだったのです。

使用量の検討はとても重要のようです。



(続く)

 

【シリーズ造血幹細胞移植前処置としてのATG

1)背景
2)作用機序
3)GVHD予防 
4)晩期効果 
5)急性GVHDに対するpre-emptive ATG療法 
6)臍帯血移植&GVHD

 

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:03 | 血液疾患(汎血球減少、移植他) | コメント(0) | トラックバック(0)

作用機序:造血幹細胞移植前処置としてのATG(2)


【ATGの作用機序とGVHD予防】


抗ヒトT細胞グロブリン(ATG)は移植片対宿主病(GVHD)予防に20年以上使われていますが、作用機序は不明な点も多いのです。

ATGは、T細胞特異抗原に対する抗体以外に、T細胞に関連しない抗体を少なくとも23種類含んでいます。これによっても生体内に何らかの影響を与えていると想像されています。
ATGは高濃度の場合、補体依存性細胞溶解、抗体依存性細胞傷害活性、網内系細胞によるオプソニン効果誘導によりリンパ球を抑制します。
低濃度の場合、Fas-Fasリガンド系を介して活性化リンパ球のアポトーシスを誘導します。

ATGは主にT細胞数を減らしてT細胞を抑制します。カニクイザルを用いた実験でも、ATG用量依存性にリンパ球が減ることが確認されています。この効果は、末梢血と脾臓で認められましたが、胸腺ではみられませんでした。そのほか、T細胞上抗原をdown regulationする作用も有しています。
またATGは、成熟の程度を問わず樹状細胞を細胞傷害し、機能も抑制します。ホストの樹状細胞は急性GVHD発症の中心的役割を担っていることから、ATGの急性GVHD予防効果を考える上でこの作用は重要です。

Regulatory T cell (Treg)は、免疫反応抑制・免疫寛容維持に重要な役割を担っています。マウスモデル実験で、Tregが移植片の拒絶とGVHD予防効果を有していることが示されました。臨床では、移植片中のTregが多いほどGVHDは起こりくいです。

最近、TG(抗胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン、商品名:サイモグロブリン)がTregの数を増やし機能を高めることが明らかとなりました。しかもウマ由来のATGを用いた場合はみられませんでした。
また、この効果はTGを低濃度で用いた場合にかぎりみられました。これは、TGを低濃度で用いた場合、Tregを介したGVHD抑制効果が期待できることを示唆しています。

(続く)

 

【シリーズ造血幹細胞移植前処置としてのATG

1)背景
2)作用機序
3)GVHD予防 
4)晩期効果 
5)急性GVHDに対するpre-emptive ATG療法 
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 05:02 | 血液疾患(汎血球減少、移植他) | コメント(0) | トラックバック(0)

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