強力な止血機序と血栓症:血液凝固検査入門(11)
線溶とt-PA&プラスミノゲン:血液凝固検査入門(10)から続く。
現代に生きる人間は、出血には大変強力ですが、血栓症には弱い生物です。
人間の二大死因は、悪性腫瘍(癌)と並んで血栓症です。
現代に生きる人間は、血栓症である脳梗塞、心筋梗塞、肺塞栓などで命を失いやすいのですが、出血で命を失うのは例外的です。
なぜ、人間は出血には強く、血栓症には弱いのでしょうか?
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<人間が出血に強い理由>
1)強力な凝固のエンハンスシステム:
マルチステップの凝固カスケードが存在しています。このカスケードによって凝固という止血のために必要な機序は、著しく増幅されます。
わずかな凝固活性化であっても、最終的には大きな凝固活性化を生じて止血します。
2)大量に存在する止血因子:
血小板や凝固因子と言った止血因子は本当に必要な量の数倍〜10倍存しています。例えば、血小板数の正常値を30万/μLとしますと、1/10に低下して3万/μLになりましても、それだけでは出血することはほとんどありません。
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)では、血小板数3万/μLであっても、特に加療することなく経過観察することが多々あります。あまり出血することがないからです。
凝固因子も同様です。血友病Aの場合、第VIII因子が5%より高値であれば軽症に分類されます。ほとんど出血はありません。ひょっとしたら、血友病の診断がなされることなく、天寿を全うされるかも知れません。
<人間が血栓に弱い理由>
1) 抗凝固機序&線溶機序のエンハンスシステムの不備:
凝固活性化機序には強力な増幅システムがあるのとは対象的に、抗凝固機序にはエンハンスシステムが備わっていません。
線溶(血栓を溶解しようとする働き)にはカスケードが存在しますが、わずか2ステップの線溶のカスケードのために、ほとんど反応が増幅されることはありません。凝固カスケードとは対照的です。
2)凝固阻止因子(アンチトロンビン、プロテインC&S)の不足:
血小板や凝固因子と言った止血因子がたっぷり存在するのとは対照的に、凝固阻止因子は必要最少限しか備わっていません。
たとえば、先天性アンチトロンビン欠損症(先天性プロテインC&S欠損症も同じ)は、アンチトロンビン活性が50%に低下したヘテロ接合体の場合、血栓傾向になってしまいます。止血因子は1/10に低下してもほとんど症状が出ないのとは対照的に、凝固阻止因子は半減しただけで、もう血栓傾向になってしまうのです。
人間が強力な止血機序を有しているというのは、古代に生きる人間には好都合だったでしょう。狩りをして過ごした古代人間は、出血によって命を失うことが多かったことでしょう。強力な止血機序を有した人間のみが淘汰されることなく現代に生きているのでしょう。
しかし、現代に生きる人間は出血ではなく血栓症によって命を失っています。この強力な止血機序はむしろ悪さをしています。なぜなら、止血機序と同じような機序で血栓症を発症してしまうからです。
これは、人類文明の発展が早すぎたために、人間の止血血栓の機序が適応しきれずに、今だに古代人間用の機序のままであると言えるのではないでしょうか。
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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:44 | 凝固検査 | コメント(0) | トラックバック(0)