金沢大学・血液内科・呼吸器内科
※記事カテゴリからは過去の全記事をご覧いただけます。
<< 2009/04/14トップページ2009/04/16 >>
2009年4月15日

深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):下大静脈フィルター

深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):予防、ガイドラインから続く。

 

 【深部静脈血栓症/肺塞栓に対する下大静脈フィルターの是非】


下大静脈フィルター

下大静脈フィルターには、永久的(permanentタイプ)と、非永久的(temporaryタイプ)があります。

理屈は、下肢に深部静脈血栓症DVT)があっても(そしてその血栓の一部が血流にのって肺動脈に至ろうとしても)、下大静脈にフィルターを留置しておけば、肺塞栓PE)まで至らないだろうという考え方です。確かに、理屈だけ聞けばよさそうに感じます。

しかし、上図を見ての通り、フィルターとは言っても隙間だらけのフィルターです。本当に巨大な血栓が飛んで来た時だけ、引っ掛けよう、というよりもむしろフィルターにぶつかって巨大な血栓が少しでも砕けるのを期待しようということになります。


フィルターに対する思いは、臨床家の間でもかなりの温度差があるように感じています。フィルターを支持する臨床家は、上図の右の取り出されたフィルターを見て、しっかり血栓が「補足された」と表現します。一方、フィルターをあまり支持しない臨床家は、フィルター(異物)を入れたから、フィルター部位で血栓が「形成されてしまった」と表現します。

上図では、どちらの立場も尊重するため、フィルター部位には血栓が「存在していた」と書かせていただいています。

出血性素因があり抗凝固療法を行えない時など、フィルターが必要な時は必ずありますが、そのようなケースは極めて例外的であろうと管理人は考えています。少なくとも、何でもかんでもフィルターを入れるというのは間違った考え方でしょう。

 


【下大静脈フィルターの成績】

フィルター成績

上図は、近位部深部静脈血栓症(DVT)に対して、下大静脈フィルターを留置して肺塞栓(PE)の予防効果を検討したものです。フィルター留置群200例、非留置群200例、計400例での比較検討になっています。

予想に反して、肺塞栓の発症、大出血の副作用、死亡に関しては両群間に有意差はみられませんでした。しかも皮肉なことに、有意差がついたのは深部静脈血栓症の再発率でした。フィルター留置群の方が、有意に深部静脈血栓症の再発率が高くなっています。

論文中では、下大静脈フィルターの短期的なメリットはあると論じていますが、長期的にみますと、あまり良いことはないと言うことになります。

体内に異物を留置することにはデメリットもありますので、フィルターを留置するかどうかの判断は慎重に行うべきであろうと考えられます。

(続く)

深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):危険因子、血栓性素因

 

深部静脈血栓症/肺塞栓(インデックスページ)クリック



関連記事:深部静脈血栓症と血栓性静脈炎の違い


関連記事

血栓症の分類と抗血栓療法の分類

抗血小板療法 vs, 抗凝固療法(表)

PT-INRとトロンボテスト

・NETセミナー:血栓症と抗血栓療法のモニタリング

ワーファリン

抗Xa vs. 抗トロンビン

深部静脈血栓症

ロングフライト血栓症

閉塞性動脈硬化症

 

ヘパリン類(フラグミン、クレキサン、オルガラン、アリクストラ)

ヘパリン類の種類と特徴(表)

低分子ヘパリン(フラグミン、クレキサン)

オルガラン(ダナパロイド )

アリクストラ(フォンダパリヌクス)

プロタミン(ヘパリンの中和)

スロンノン(アルガトロバン)

・NETセミナー:DICの病態・診断

・NETセミナー:DICの治療


投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:29 | 血栓性疾患 | コメント(0) | トラックバック(0)

深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):予防、ガイドライン

深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):治療から続く。

 

深部静脈血栓症/肺塞栓(インデックスページ)クリック

 

 【深部静脈血栓症/肺塞栓の予防】

心原性脳塞栓に代表されるように、血栓症は一旦発症してしまいますと不可逆的な機能麻痺を残してしまったり、最悪の場合には死に至ってしまうことがあります。

血栓症予防の重要性は、心原性脳塞栓のみならず、静脈血栓塞栓症VTE)(深部静脈血栓症DVT)&肺塞栓PE))についても全く同様です。特に、肺塞栓(PE)を発症しますと致命症になってしまうことがあります。

さて、静脈血栓塞栓症の発症予防のためにはどうすれば良いでしょうか?


1)足関節の底背屈運動:

いわゆる下肢の「筋肉ポンプ」を働かせる行動になります。車中泊や、ロングフライトで、静脈血栓塞栓症を発症しやすくなるのは、下肢を動かすことができず筋肉ポンプが、働かなくなるためです。
筋肉ポンプは、下肢の静脈血を心臓側へ還す上で、とても重要な働きを演じているのです。

2)脱水を避ける:

脱水になりますと、血液粘度が上昇し、血栓症を誘発しやすくなります。脱水にならないような水分補給が重要です。ただし、アルコールには利尿作用がありますので、同じ水分とは言っても逆効果です。

3)弾性ストッキングの装着:

これは極めてDVT予防効果があります。表在血管の血液の鬱滞をなくし、深部静脈の血流を増加させます。患者さんから下肢をしめつけると血流が悪くなるのではないかというご質問をよくお受けいたしますが、そのようなことはありません。静脈血流は良くなるのです。

管理人は、20〜30年後には、世界中の人類が、疾患の有無とは関係なく弾性ストッキングを装着する時代がくるのではないかと真剣に思っています(弾スト時代の到来)。



【静脈血栓塞栓症の予防ガイドライン】

DVT予防


治療以上に重要なのが予防です。

手術後、特に整形外科手術後に、深部静脈血栓症を高率に発症することにつきましては既に記事にさせていただきました(参考記事)。肺塞栓まで発症してしまいますと、致命症になることがあります。折角、手術に成功しましても、術後に静脈血栓塞栓症を発症しては、術後の経過を一気に悪くしてしまいます。

現在、肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドラインが発行されており、術後の肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)に対する注意が呼びかけられています。

詳細はガイドラインを見ていただくのが良いのですが、ポイントは、

1)早期離床、積極的運動:いわゆる筋肉ポンプを働かせる訳です。

2)弾性ストッキング:予防効果が大きいです。

3)間欠的空気圧迫法:予防法ですが、治療には用いてはいけません。深部静脈血栓症があるにもかかわらず、間欠的空気圧迫法を行いますとかえって肺塞栓を誘発してしまいます。

4)抗凝固療法(ヘパリン類)

 

(続く)

深部静脈血栓症/肺塞栓(エコノミークラス症候群):下大静脈フィルター



関連記事:深部静脈血栓症と血栓性静脈炎の違い


関連記事

血栓症の分類と抗血栓療法の分類

抗血小板療法 vs, 抗凝固療法(表)

PT-INRとトロンボテスト

・NETセミナー:血栓症と抗血栓療法のモニタリング

ワーファリン

抗Xa vs. 抗トロンビン

深部静脈血栓症

ロングフライト血栓症

閉塞性動脈硬化症

 

ヘパリン類(フラグミン、クレキサン、オルガラン、アリクストラ)

ヘパリン類の種類と特徴(表)

低分子ヘパリン(フラグミン、クレキサン)

オルガラン(ダナパロイド )

アリクストラ(フォンダパリヌクス)

プロタミン(ヘパリンの中和)

スロンノン(アルガトロバン)

・NETセミナー:DICの病態・診断

・NETセミナー:DICの治療


投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:28 | 血栓性疾患 | コメント(0) | トラックバック(0)

<< 2009/04/14トップページ2009/04/16 >>
▲このページのトップへ