金沢大学・血液内科・呼吸器内科
※記事カテゴリからは過去の全記事をご覧いただけます。
<< 前のエントリトップページ次のエントリ >>
2008年09月09日

ピロリ菌と特発性血小板減少性紫斑病(ITP)

ピロリ菌の本 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は、血小板数が低下する血液疾患の一つです。自己血小板に対して抗体が産生され、血小板が破壊されます。

血液内科の疾患としては、鉄欠乏性貧血や抗リン脂質抗体症候群などとともに、とても多い疾患ではないかと思います。


血小板数の正常値は、15〜40万/μL位ですが、この疾患では血小板数が一桁にまで低下します。多くの病気では早期診断、早期治療が重要ですが、この疾 患では早期診断は重要ですが、必ずしも早期治療は重要ではありません。血小板数が2〜3万程度に低下していても、出血症状がなければ無治療で経過観察する ことも少なくありません。

さて、近年のITP治療は大きく変貌をとげました。特に、以下の1)です。


ITPの治療



1)ピロリ菌の除菌療法:ピロリ菌(再発性の胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原 因となりうる)陽性かどうかは、胃カメラ、呼気法、血液検査などで明らかにできます。陽性であれば是非とも試みるべき治療です。抗生剤2種類とプロトンポ ンプインヒビター(PPI)1種類を、1週間内服いたします。副作用はほとんどありません。約50%の方で、血小板数が回復します。



2) ステロイド療法(プレドニゾロンなど):副作用が多い治療法ですので、できることなら行いたくない治療です。しかし、血小板数が漸減し出血症状がみられ、除菌療法が無効であった場合には行わざるをえません。



3) 摘脾術:除菌療法やステロイド療法が無効であった場合に考慮します。この病気は血小板が脾臓で破壊されますので、その脾臓を除去して、血小板が破壊されないようにしようという考え方です。



4) 免疫グロブリン大量療法:通常は摘脾術の1週間前から点滴で投与します。ただし、効果は一時的です(ですから、摘脾術とセットで考慮する治療です)。



5) その他:その他の免疫抑制療法など。



なお、1)〜5)ともに、効果は20〜50%くらいです。


さて、何故、ピロリ菌の除菌療法(本来は胃潰瘍や十二指腸潰瘍の治療)が、ITPに有効なのでしょうか?

ピロリ菌に対する抗体が、血小板とも交差反応するためではないかと考えられています。除菌療法により、抗ピロリ菌抗体が消失しますと、血小板とも反応しなくなり血小板数が回復するという考え方です。

ステロイド治療とは異なり、除菌療法にはほとんど副作用がありませんので、ITPでピロリ菌陽性が証明された場合には、必ず試みるべき治療ではないかと思います。

やや違和感を感じられるかも知れませんが、管理人は、ITPの患者様がピロリ菌陽性ですと、ほっとすることが多々あります。ほとんど副作用を伴わない除菌療法を行う事ができて、この治療で血小板数回復を50%期待できるからです。

それにしても、ITPに対して除菌療法が有効であることを最初に発見した人は偉大ですね。

なお、画像はAmazonからの引用です。

 

【リンク】

血液凝固検査入門(図解シリーズ)

播種性血管内凝固症候群(DIC)(図解シリーズ)

金沢大学血液内科・呼吸器内科HP

金沢大学血液内科・呼吸器内科ブログ

研修医・入局者募集

投稿者:血液内科・呼吸器内科at 14:35| 出血性疾患 | コメント(0)

◆この記事へのコメント:

※必須