金沢大学・血液内科・呼吸器内科
※記事カテゴリからは過去の全記事をご覧いただけます。
<< 前のエントリトップページ次のエントリ >>
2008年09月22日

【金沢大学統合卒業試験過去問題】兼:国家試験対策・専門医試験対策

金沢大学統合卒業試験過去問題2007年)

(設 問)
34歳女性。流産の既往が3回あり。現在内服中の薬物なし。昨夕より、左下肢の腫脹が出現するようになった。本朝になり左下肢の腫脹が悪化し、疼痛による歩行困難もみられるようになったため来院した。血液学的検査:白血球 8,200、赤血球 362万、Hb 12.2g/dl、血小板 8.5万、ALT 23単位、クレアチニン 0.8mg/dl、LDH 214単位(基準176〜353)、PT 11.2秒(基準10〜14)、APTT 73.4秒(基準対照32.2)、FDP 16μg/ml(基準10以下)、CRP 5.8 mg/gl(基準0.3以下)。
この患者にみられる検査所見として誤っているのはどれか。1つ選べ。 
予測正答率 85%

( )a Dダイマー上昇
(    )b フィブリノゲン上昇
( )c 抗カルジオリピン抗体陽性
(    )d von Willebrand因子活性低下
( )e ループスアンチコアグラント陽性


(ポイント)
1)    本症例は、習慣性流産の既往を有する女性で、血小板数低下APTT延長をきたしており、抗リン脂質抗体症候群が強く疑われる。
2)    左下肢の腫脹、炎症反応(CRP上昇)、FDP上昇は、深部静脈血栓症(DVT)を発症したためと考えられる。
3)    DVTのため、FDP同様にDダイマーは上昇しているものと考えられる。
4)    フィブリノゲンは炎症反応の一環として上昇しているものと考えられる。
5)    抗リン脂質抗体症候群と関連して、抗カルジオリピン抗体およびループスアンチコアグラントは陽性であって良い。
6)    von Willebrand因子活性は、炎症のためむしろ上昇しているものと考えられる。


(内科専門医試験対策)
抗リン脂質抗体症候群(antiphopholipid syndrome:APS)とは、臨床症状があり、診断用検査1)2)3)のいずれか一つ以上が陽性の時に診断される。

臨床症状
1)    動脈血栓症 and/or 静脈血栓症
2)    不育症(習慣性流産)
診断用検査
1)    ループスアンチコアグラント
2)    抗カルジオリピン抗体
3)    抗β2GPI抗体:日本では保険点数はついていない。

良く見られる検査所見(必ず見られる訳ではない)
1)    血小板数低下
2)    APTT延長
3)    梅毒反応の生物学的偽陽性(BFP)
4)    抗核抗体陽性
5)    複数凝固因子活性の低下


(血液専門医試験対策)
ループスアンチコアグラントや、第VIII因子インヒビターなどの循環抗凝血素の存在下では、凝固時間のクロスミキシング試験(混合試験)で、凝固時間の延長が補正されないのが特徴である。

例:
患者血漿(Pt)APTT 73.4秒
コントロール血漿(C)APTT 32.2秒

混合血漿(Pt:C=1:1)APTT 69.0秒(凝固時間の延長が補正されていない):ループスアンチコアグラントや第VIII因子インヒビターなど(ただし、第VIII因子インヒビターでは2時間incubationが必要)。

混合血漿(Pt:C=1:1)APTT 38.0秒(凝固時間の延長が補正されている):血友病や肝硬変などの凝固因子欠乏状態。


(注意)
クロスミキシング試験(混合試験)は、ごく最近保険収載された検査項目であるため、血液専門医試験や内科専門医試験などで特に出題されやすいものと推測される(混合試験のデータの解釈など)。


(答)d

投稿者:血液内科・呼吸器内科at 07:20| 医師国家試験・専門医試験対策 | コメント(0) | トラックバック(0)

◆この記事へのトラックバックURL:

http://control.bgstation.jp/util/tb.php?us_no=426&bl_id=391&et_id=22818

◆この記事へのコメント:

※必須