金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2008年09月29日

ワーファリン:経口抗凝固薬、PT-INR

ワルファリン(経口抗凝固薬)

ワルファリン(商品名:ワーファリン)は、これまでは唯一内服可能な抗凝固薬でした(現在は、新規経口抗凝固薬がでましたので事情が変わっています)。ワルファリンはビタミンKの拮抗薬で、活性のあるビタミンK依存性凝固因子の産生を抑制することで抗凝固活性を発揮します。

ビタミンKのKの由来は、オランダ語のKoagulation(英語ではCoagulation)の頭文字に由来しています。文字通り凝固のためのビタミンと歴史的にも認識されてきました。また脂溶性ビタミンであり、その吸収には胆汁の存在を必要とします。


ビタミンK依存性凝固因子として、半減期の短い順番に第VII因子、第IX因子、第X因子、第II因子(プロトロンビン)の4つの凝固因子
が知られています。これらの凝固因子は肝での生合成の最終段階で、ビタミンKの存在下で分子中のグルタミン酸のγ-カルボキシル化を生じ、このことによりカルシウム結合能を獲得し、血小板のリン脂質と結合できるようになります。

ワルファリン投与下やビタミンK欠乏状態では、グルタミン酸のγ-カルボキシル化が障害されて、PIVKA(protein induced by vitamin K absence)が出現します。

PIVKAはカルシウム結合が障害されており、凝固活性を有さず出血傾向をきたします。ただし、適切なモニタリングの下にワルファリンによって適度なビタミンK欠乏状態にすれば、あまり出血の副作用をきたすことなく血栓症の発症を抑制することが可能です。


ワルファリンは、心原性脳塞栓症、深部静脈血栓症、肺塞栓などの凝固血栓の病態に対して使用されます。
ワルファリンを適切に使用することでこれらの血栓症の発症を有意に抑制することが可能です。特に、心房細動は高頻度にみられる不整脈であり、ワルファリン内服を必要とする患者数はかなり多いはです。

しかし、ワルファリンはPT-INR(古くはトロンボテスト)による適切なコントロールを行わないと出血の副作用が懸念されること、頻回の血液検査の煩雑さ、他の薬物との併用により効果が増強したり減弱したりすること、納豆などビタミンKの豊富な食物を摂取できないことなどの理由により、ワルファリン治療がなされるべきでありながらアスピリンなど他剤で代用されてきた事例が少なくありませんでした(ワルファリンを用いるべき病態に対してアスピリンを用いても十分な効果が期待できないことが知られているにもかかわらずです)。


比較的最近、複数スポーツ監督者の心原性脳塞栓症の報道が多くあったことなどに伴ってか、この疾患に対する国民の関心が格段に高まっています。


ワルファリンが用いられるべき患者に対して本薬の処方件数が増加するのは国民全体の健康に貢献すると考えられますが、出血の副作用は最小限に抑制することが重要です。

現在、院内でPT-INRの即日検査が可能な医療機関は中規模以上の病院と考えられますが、小規模病院や開業医でも簡便にPT-INRのチェックが可能な機器の登場は、本薬が適正に内服される上でも極めて意義が高いです。

この点、約1分で結果を出せるPT-INR簡易・迅速測定装置 「コアグチェック XS」の存在はありがたいです。

 

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:28| 抗凝固療法 | コメント(1) | トラックバック(0)

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◆この記事へのコメント:

この記事のコメント欄で御質問をいただいたのですが、本名が書かれていましたので、公開手続きをとらずにご質問を紹介させていただく形で、分かる範囲内で回答させていただきます。

(以下はご質問内容です)
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大学病院で働く皮膚科医です。高齢者に一定の割合で発生する水疱性類天疱瘡の治療で、20-30mgのプレドニンを投与することが多いのですが、外来診療の場合、抗凝固療法が行えず、深部静脈血栓などの発生が懸念されます。抗凝固療法の必要性、投与しない場合の責任、歩行などの日常生活ができる場合と寝たきりの場合での違い、など教えて頂ければ幸いです。
-------------------
(以上がご質問内容です)


(回答)
管理人の不勉強で良く知らないのですが、水疱性類天疱瘡に深部静脈血栓症を合併する頻度は何%位でしょうか。この数字が、有意に高い場合には、抗凝固療法が必要になる可能性があります。

あるいは、水疱性類天疱瘡に、抗リン脂質抗体症候群を合併することも少なくないのでしょうか。抗リン脂質抗体症候群の合併があった場合にも、抗凝固療法が必要になる可能性があります。

寝たきりになりますと、水疱性類天疱瘡とは関係なく、深部静脈血栓症を合併しやすくなります。少なくとも、弾性ストッキングの装着はした方が良いと思います。

また、リスクはあると考えられている場合には、深部静脈エコーを行い、また凝固検査(FDP、Dダイマーほか)を定期的に行った方が良いと思います。

さて、抗凝固療法の必要性ですが、上記の事情や検査結果によって変わってきますので、一概には言えないのではないかと思います。

外来の患者さんで(つまり寝たきりでなく)、抗リン脂質抗体症候群の合併もなく、その他のDVTのリスクもないのであれば、水疱性類天疱瘡の全患者に抗凝固療法を行うまでは必要ないように感じますが、如何でしょうか。

ただし、水疱性類天疱瘡でのDVT発症率を知りませんので、もし見当違いの回答になっていましたらご容赦お願いします。

この度は、ご訪問いただきありがとうございました。

投稿者:血液・呼吸器内科: at 2010/05/13 16:33

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