金沢大学・血液内科・呼吸器内科
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2008年10月09日

TATとは?(血液凝固関連の検査)

TAT


TAT

正式名称
トロンビン-アンチトロンビン複合体(thrombin-antithrombin  complex: TAT)

正常値:
<3〜4 ng/mL

意義:
トロンビンとその代表的な阻止因子であるアンチトロンビンが1:1結合した複合体がTATです。
TATにより、生体内における凝固活性化の程度を評価することができます。

凝固活性化に伴い産生される最終的な酵素はトロンビンですが、トロンビンの一部は速やかにアンチトロンビンと結合して、トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)が形成され、トロンビン自身は不活化されます。

トロンビンの血中半減期は極めて短いため直接測定することは不可能ですが、TATの血中半減期は3〜15分であるため測定することが可能です。血中TAT濃度を測定することで、採血時の凝固活性化の程度を知ることができます。

上昇する病態
1)DIC、DIC準備状態
2)深部静脈血栓症(DVT)、肺塞栓(PE)
3)心房細動の一部、僧房弁狭窄症に合併した心房細動
4)その他の凝固活性化状態

低下する病態
なし。ただし、ワルファリン(商品名:ワーファリン)による抗凝固療法を行っている場合には、正常下限となることがあります。

関連マーカー
現在、凝固活性化のマーカーとしては、TATの他にプロトロンビンフラグメント1+2(prothrombin fragment 1+2: F1+2)や、可溶性フィブリンモノマー複合体(soluble fibrin: SFやfibrin monomer complex: FMC)なども知られています。

理論的には、これらのマーカーは併行して変動しても良いはずですが、代謝経路や血中半減期が異なるため、必ずしも相関はしません。

臨床に役立つお役立ち情報:
大量胸水や大量覆水が貯留している症例では、時にFDPやDダイマーが上昇し、DICかどうか悩ましいことがあります。この際、TATが正常であればDICを否定できます。

管理人自身の経験ですが、大量腹水が貯留して、FDP&Dダイマーが著しく上昇した肝硬変の症例(血小板数低下、フィブリノゲン低下、PT延長の所見もあり)を経験したことがあります。DICだろうと考えヘパリン類の指示を出そうとしたところ、TATのデータが到着しました。その結果は、TATは全く正常でしたのでDICを否定しました。あやうく間違って、ヘパリン類を投与してしまうところでした。TATが正常ということは、凝固活性化がないという訳ですので、ヘパリン類は不要です。

TATで、治療方針の大転換があるという意味でも、大変にパワフルなマーカーではないかと思います。

 

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投稿者:血液内科・呼吸器内科at 06:24| 凝固検査 | コメント(3)

◆この記事へのコメント:

○○先生、昨日はご指導ありがとうございました。
PICとTATの正常値はしっかりと頭に叩き込んでおきます!
リニューアルされた旧第3内科のサイトを拝見しました。医局の雰囲気がつたわる素敵なサイトだと思います。ブログを毎日更新されるのは、大変なこととお察ししますが、今後とも楽しみにさせていただきます。

投稿者:BSL学生 04−83: at 2008/10/09 12:08

コメント入れていただきありがとうございます。

これからも、研修医のみなさん、医学部学生のみなさん、その他多くの医療関係者のみなさんに有用な情報を発信していけるように頑張ってまいります。

ご要望などあれば何なりとコメントを入れていただければと思います。

今後ともよろしくお願いいたします。

投稿者:血液内科・呼吸器内科: at 2008/10/09 12:50

この記事のコメント欄で、御質問をいただきました。
実名が書かれていましたので、公開手続きをとらずに、引用で回答させていただきます。

(以下が御質問内容です)
-------------------
病院の検査部に勤務する臨床検査技師です。
今日は教えていただきたいことがあり投稿させて頂きました。
当院で整形外科の手術後の血腫が原因と思われる、FDP高値の症例がありました。
このような場合、腹水や胸水の貯留の時と同じように、TATは上昇しないのでしょうか?
----------------------
(以上が御質問内容です)

とても重要なご質問をいただきありがとうございます。
整形外科の手術後のFDP上昇に関しましては、慎重な評価が必要だと思います。
血腫の吸収に伴いFDPが上昇することも確かにありますが、整形外科術後の深部静脈血栓症/肺塞栓や術後DICでもFDP上昇がみられることが少なくないからです。

もしも、上記のような場合で、FDPが上昇しているにもかかわらず、TATが全く正常であった例をどう考えるですが、おそらく専門家の間でもいろんな意見が出てくるのではないかと思います。

以下に可能性を列挙したいと思います。

1) TATは半減期が数分と短いために、以前はTATもFDPも高値であった時期があったが、採血時点ではTATは低下していた。
2) TATだけで凝固活性化を評価するのは危険である。SFや、F1+2も合わせてみるべきである(実際、TATが全く正常であるにもかかわらずSFが高値である=凝固活性化状態であると考えられることがあるようです)。この点は、今後の検討課題ではないかと思っています。
3) FDPは血腫吸収に伴うものであり、凝固活性化状態にはない。

私たちは、最近(このブログ記事を書いたころではなく、ここ3ヶ月くらいですが)、2)の可能性を無視できないのではないかと思うようになっています。

以上、どっちつかずの回答になってしまいましたが、分かる範囲内で書かせていただきました。

投稿者:血液内科・呼吸器内科: at 2009/05/13 10:30

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